プレゼンテーションに関する本は世の中にいろいろありますが、その中でも代表的なものを取り上げて書評を加えたのがこのコーナーです。
その数、全46冊。「え~、そんなに読むの…!?」と思った方もご心配なく。私たちプレゼンテーション・カレッジでは、いろいろな人が提唱しているプレゼンの「極意」をまとめたプレゼン入門セミナーを主催しています。
46冊読破するもよし、2時間で学ぶのもよし。
プレゼン上手への道は一本ではありません。
プレゼンテーションに関する本は世の中にいろいろありますが、その中でも代表的なものを取り上げて書評を加えたのがこのコーナーです。
その数、全46冊。「え~、そんなに読むの…!?」と思った方もご心配なく。私たちプレゼンテーション・カレッジでは、いろいろな人が提唱しているプレゼンの「極意」をまとめたプレゼン入門セミナーを主催しています。
46冊読破するもよし、2時間で学ぶのもよし。
プレゼン上手への道は一本ではありません。
「パワーポイントのスライドをきれいに作りたい…」。そう思ったときに手に取りたいのが宮城信一先生のご著書、「「デザイン」の力で人を動かす! プレゼン資料作成「超」授業 プレゼン上手に明日からなれる」です。
ハッキリ言って、良著。この手の本の中ではイチオシです。
デザイナーさんによる資料作成の指南は、プレゼンテーション本の一分野をなしています。ところが、これが意外とくせ者。デザイナーさんのように感性が鋭い人から見ると当たり前のことが、素人にはわかりづらく、結果としてほんの解説がなかなか腹落ちしないことがあるためです。
加えて、デザイン的要素はあくまでもプレゼンテーションの一部分に過ぎないという問題もあります。しかも、どちらかというと「幹」というよりも「枝葉末節」でしょう。「幹」は中身<コンテンツ>です。「何を、どういう順番で伝えるのか」という構成を考えたり、その背後にある聞き手の問題意識を理解することこそが王道です。
もちろん、見た目も良いに越したことはありませんが、コンテンツがグダグダなのに見た目だけ整えても意味はありません。この点がデザイナーさんが手掛けるプレゼンテーションの本では見過ごされているものも少なくありません。
ところが、本書においては、デザイン的に優れたスライド資料を見せた後、「何が違うのか」、「良いスライドを作るにはどうしたら良いのか」が懇切丁寧に説明されているので、シロート(非デザイナー)でもその技を学ぶことができます。
たとえば、「視線の流れ」というところ(46p)。
という3つのノウハウが事例入りで紹介されていて、「なるほど!」と膝を打ちます。
同様に、「対比づくりのコツ」においても、
と細分化されています。
また、本書のもう一つの良心的な点として、プレゼンの「使い回し」を前提にしていることが挙げられます。プレゼンの有名な事例としてスティーブ・ジョブズ氏のものが取り上げられることは多いものです。スタンフォード大学の卒業式や、iPhoneの紹介のイベント等ですね。しかし、普通のビジネスパーソンはそのような「一世一代の晴れ舞台」的なプレゼンテーションに取り組む機会はまれです。
むしろ、似たような内容を、異なる相手に対して、微妙に立場を変えて説明する機会の方が多く、この観点でプレゼン資料は「使い回しが効く」ように作るべきです。この観点で、「時間をかけずにカッコいい表を作るテクニック」(102p)は正しい指摘がされています。
他にも様々なノウハウ(実例スライドが136枚収録されているそうです)が紹介されているので、プレゼンの資料作りに悩む方は一度は手にとって損はないと思います。
画像はアマゾンさんからお借りしました
「話しベタなのにプレゼンをやらなければ…」。そんなときに手にとってしまうかもしれないのが清水久三子先生のご著書「話しベタさんでも伝わるプレゼン 人見知り、心配性、アドリブが苦手な人でも堂々と発表できる!」です。
話しベタな人がなんと言っても困るのが、プレゼンテーションの際に緊張してしまうことでしょう。その対策として著者の清水久三子先生が進めるのが「緊張のトリセツ」を作ることです。
自分の緊張の症状をまずは洗い出してみます。症状が分かれば、症状を緩和する準備や対策ができます。話しベタな人は緊張の症状が出ると、「ああ、緊張している。もうだめだ…」と気持ちが負けてしまって失敗することが多いので、準備や対策をしておくことで「緊張してきたけど大丈夫!」と自分を落ち着かせることができ、自信を持って話すことができます。
とのこと。
具体的には、「手足が震える」という症状に対してはハンカチを握りしめる、肩に力を入れて上げてストンと落とす、「汗が吹き出る」という症状に対しては、スーツにパッドをつけておく、ハンカチは2枚準備しておく、などが紹介されています。
話しベタな人にとってもうひとつの心配と言えば、「噛む」、つまり言葉がつっかえたりいい間違えをすることです。これだけで聞き手からは「自信がなさそうだな~。ということは、プレゼン内容もたいしたことはないのだろう」と思われてしまいます。この解決策として面白いのが、ハミング。といって、鼻歌を歌おうと言うことではありません。口を閉じたまま声を出すことで、口の周りの筋肉に負荷をかけ、その負荷がなくなったときに楽に話せるという方法論です。
具体的なやり方を見てみましょう。
というダンドリです。
本所においては、プレゼンテーションの成功の秘訣は聞き手の分析であると説明されています。なぜならば、プレゼンテーションの失敗というのは、聞き手の期待が分かっていなかったり、聞き手の理解度が分かっていないために生じるからです。そのために、プレゼン準備の際には聞き手の人物像をしっかりと調査する必要があるとのこと。
聞き手の期待するテーマを知るために、人物像が分かる情報を集めましょう。人物像は、現在置かれている状況であるヨコのつながりと、経歴など時系列の情報であるタテのつながりで見ていきます。
という方法論が提唱されています。
そのうえで、4つのタイプに当てはめて、タイプにあわせた話し方をするのが説得力を増すコツだとか。
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「最新のデジタル技術を使いこなしたプレゼンをしたい…」。そう思った時に手にとりたいのが戸田覚先生のご著書「“秒速”プレゼン術」です。
戸田先生と言えば、デジタルガジェットを紹介する記事を様々なところで書いておられる方。そんな方がコロナ禍のプレゼン技術を教えてくれるというので、もうそれだけで興味津々です。
さっそくチェックしたのが、「絵心不要!プレゼン用イラストたった10分で描き上げるワザ」というところ。プレゼンでイラストを使いたいけど、自分の要望にピッタリとあうものがないというのはよくある悩みです。それならば自分で書いてしまえ、とデジタル機材を使って書くワザを紹介してくれています。使うのは、iPadとApple Pencil、そしてProcreate (プロクリエイト)というアプリ。ちなみに、Procreateは「グラレコ」の本園先生も推奨されていたので、この分野では定番アプリなのでしょう。
プロのイラストレーターの方を先生に招いて、イラストを各家庭が本書90pあたりに紹介されています。ただ、著者の戸田覚先生が描かれたイラストは、ちょっと素人っぽさが出ていると感じてしまいました(すみません)。その原因は、輪郭をしっかりと捉えられていないことにあると思います。そうするとやはり本書で説明された技法、
下描きに自信がなければ、その代わりに写真を使ってもいい。「Procreate」にも写真を取り込む機能が用意されている。その上に下描きや本描きのレイヤーを重ねて、対象物の輪郭をなぞればいいというわけだ。
というのを見たかったと思います。
本書でもうひとつ面白いと思ったのが、「プロジェクターはもう古い。プレゼン資料をスマホに配信」というところ。対面でのプレゼンテーションの場合、パソコンの画面をプロジェクターを使ってスクリーンに投影というのが一般的です。でも、これだと大がかりな機材が必要。ところが、スマホに投影できるとなれば、自由度が一気に増します。
全員が手元に何らかのスクリーンを持っているのだから、それを見てもらう形でプレゼンすれば、視力の弱い人も見やすくなるし、ソーシャルディスタンスを保つといった制限にも対処がしやすくなるだろう。
というのは、「なるほど」と思いました。対面でのプレゼンテーションが選択肢1ならば、Zoomを使ったリモートプレゼンは選択肢2。それに続く、第3の選択肢として、対面の場でスマホをスクリーン代わりに使うのはありだと思います。
では、その具体的なやり方。iOS向けのプレゼンアプリにその機能があるそうです。Keynote Liveで接続用のURLを送り、スマホでタップしてもらうだけでこれが実現できるとのこと。スマホの方にはKeynoteのインストールは不要とのことです。
ただ、このようにiOS中心だと、過去に作ったPowerPointの資料という資産が活かせないので、今イチかなぁと思いきや、その解決策も本書では示されています。
PowerPointのプレゼンファイルを取り込むには、OneDriveなどのクラウドストレージを利用すると手っ取り早い。Windowsパソコンで作ったプレゼンのファイルをOneDrive上に保存すれば準備OKだ。iPhoneやiPad側でも、OneDriveのアプリをインストールして、同じアカウントでログインしておく。さらにKeynoteのアプリでOneDrive上のファイルを長押しして「移動」を選び、iCloud Drive上にコピーする。その後、iCloud Drive上でファイルを開く。
という懇切丁寧な説明がなされています。ここら辺は、デジタルにお詳しい戸田覚先生の面目躍如というところでしょう。なお、本書の141pには画像入りの説明があって、より分かりやすくなっています。
本書はデジタル以外にもプレゼンのテクニックが解説されています。その中でも注目したのが声。アナウンサーの堤友香さんにインタビューする形式で、そのコツが紹介されています。いわく、「聞き取りやすい話し方の基本は『川上から川下へ』だ」とのこと。
大きな声、小さな声ではなく、その人なりに高い声、低い声を意識して強弱をつけます。重要なのは高い声から始まって、低い声で終わるようにすることです。高い音は人を惹きつけます。スタートを高くして、語尾は低い音を意識するんです。
言われてみれば、このような音の調整がされていると、聞き取りやすくなるでしょう。
そして、高い声と話すテンポの組み合わせによって、相手に与える印象が変わってくると言うことも紹介されています。
高低 | テンポ | 相手に与える印象 |
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高い | 速い | エネルギッシュ |
低い | ゆっくり | 説得。落ち着く |
高い | ゆっくり | |
低い | 速い | 仕事が出来る |
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「プレゼンテーションの見栄えを良くしたい…」。そう思った時に手にとってしまうかもしれないのが日比海里先生のご著書「ひと目で伝わるプレゼン資料の全知識 (できるビジネス)」です。
まずは著者の日比海里先生のご経歴から紹介します。
デザイナーであった親の影響もあり、幼いころからデザインに関心を持ち、デザインの中ですくすくと成長。学生時代にグラフィックデザインのスキル・ノウハウを習得し、大学卒業後は大手出版社に新卒で入社。
ということなので、プレゼンテーションと言ってもデザイン寄りのテーマが本書のメインになります。目次を見ても、
など、「いかに見せるか」が中心になっています。その中に100を超えるセオリー(コツ)が紹介されているので、お得と言えばお得。
ただ、この手のデザイナー系の方が執筆したプレゼンテーション書籍ならば、森重湧太先生の「一生使える 見やすい資料のデザイン入門」の方が見やすく理解しやすいと感じました。典型的には、「Z字に配置すると理解しやすくなる」というページ(66p)。サンプルのスライドが掲載されていますが、これが「Z字」に配置されているというのがいまいちピンときません。シロートがパッと見ると、円グラフがあってその隣にメッセージが並んでいて、視線の動きが横に思えるのですが、プロのデザイナーから見るとZ字型なんでしょうか…ね?
一方で、パワーポイントの機能の説明は本書は丁寧です。そもそもとして、Youtubeと連携してパワーポイントの操作が分かるというのは丁寧な作りと感じました。
また、Chapter10 伝わるプレゼン資料作成のためのPoerPoint設定には、パワーポイントのテンプレート機能が詳しく解説されているので参考になります。そもそも、世の中にはパワーポイントのテンプレート機能を理解していない人もいますから、そのような人は一読する価値はあります。
一方で、デザイナーの方にありがちですが、見栄えを気にするあまりやや本質からかけ離れた提言があるのも気になるところです。たとえば、「フッターと日付は入力しなくていい」というところ。パワーポイントのスライドの最下部のフッター、必要ないと提言されていますが(251p)、これは誤解を与えてしまうと懸念します。
実務においては、フッターは必ず表示すべきです。その内容は、コピーライトの但し書きです。よくある、「当資料の著作権は○○に帰属し、本資料の一部または全部を、著作権者の許可なしに複製、転載することを禁止します。 」というあれです。
昨今のように、Zoomでのプレゼンテーションが多くなると、勝手にコピー(保存)された資料が一人歩きしてしまうリスクもあります。万が一そうなった場合にも、著作権をしっかりと謳っておくことはは必要であり、そのためにはむしろフッターは全ページに表示すべきと考えます。
本書でとくに参考になるのは、グラフに関するところです。たとえば、199pの「グラフに使って言い色数は3色だけ」というところは、なるほどと感じました。グラフでデータ系列が4つ以上あれば、色も4色以上必要と思っていましたが、それはシロート考え。著者の日比海里先生先生いわく、「使う色は3色、伝えたい部分だけに使います」とのこと。
たしかに、「そのスライドで言いたいこと」が決まれば、そこにフォーカスを当てるための色使いになるというのは納得です。ちなみに、本書の216pで紹介されていますが、パワーポイントの発売元、マイクロソフト社の公式サイトでもグラフの選び方などのコツが紹介されています。こんなところをチェックすると、よりパワーポイントの使い方が上手になりそうです。
前ページ 前田 鎌利 著、社内プレゼンの質疑応答術 ~決裁者を納得させる最強の答え方と準備の方法を読む |
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「プレゼンの質疑応答って苦手なんだよなぁ…」。そんなときに手にとってしまうかもしれないのが前田鎌利先生のご著書「社内プレゼンの質疑応答術 ~決裁者を納得させる最強の答え方と準備の方法」です。
本書の特徴は、書名にもあるとおり社内プレゼンに特化しているところです。すなわち、決済者が明確に分かっていて、その人からイエスをもらえればプレゼンの目的が完了することになります。
逆に言うと、一般的な質疑応答とは若干異なる特殊な状況と言うことになります。よくあるプレゼンテーションというのは、不特定多数で決済者が分からない状況で、聞き手に期待した行動をとってもらう、と言う状況です。そのような中での質疑応答は、「ARSA(アーサー)法」と呼んでいますが、
というのが「王道」です。たとえば、下記の会話を思い浮かべてもらえればイメージがつくでしょう。
ご質問、ありがとうございます。○○と言うご質問でしたね。会場の皆様はどう思われます?実は回答は…
では、著者の前田鎌利先生が提唱するところの社内プレゼンでの質疑応答の方法論を見てみましょう。
いよいよプレゼンが終わって質疑応答に入るわけですが、第一声は「何もしゃべらない」というのが一番大事です。『…以上です』と言って、後は決裁者が何を言うかを待ちます。
とのこと。理想的なパターンとしてはここで質問が出ずに、ゴーサインをもらうことになります。すなわち、
何もなければ「特にご意見がないようですので、こちらで進めさせて戴きます」と言ってクロージングします
となります。
本書には、「質疑応答作成10チェック」というチェックリストが用意されています。その中から1-5番目を紹介します(残りの6-10番目は本書の143pをご覧下さい)。
1 そもそもチェック | そもそもやる意味は? そもそもこの提案の根拠は? |
2 メリデメチェック | メリットデメリットを確認 |
3 リスクチェック | 実施した際のリスク 実施しなかった際のリスク |
4 時間軸チェック | 過去、過去推移 現在、現状 将来予測、見込み |
5 比較チェック | 他社比較 業界比較 異業種比較 |
とはいえ、ここまで準備しても答えにくい質問というのは出るものです。それに対して、どう切り返すかも本書では解説されています。たとえば、先延ばしを示唆する質問。
などがそれにあたります。このような質問に対しては、その質問の根拠を求めたり、先延ばしすることによるデメリットを提示することによって、「いま、ここで決める」ことの必要性を明らかにする必要があります。
のようなセリフになります。
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前ページ 越川慎司 著、稼げるプレゼンを読む |
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「AI<人工知能>の力を借りてプレゼン上手になれないか…」。そんな風に思った時手にとりたいのが越川慎司先生のご著書「稼げるプレゼン」です。正直、Amazon上ではそれほど人気があるわけではありません。しかし、資料的価値が高いのでプレゼン上手になりたいビジネスパーソンであれば一度は手にとっていただきたい「隠れた名著」です。
本書の最大の特徴は、実際のプレゼンデータを人工知能で解析して「成功パターン」を発見したことにあります。具体的には、著者の越川慎司先生のクライアント26社から提供いただいたパワーポイントのスライド51,544枚がそのベース。そこから、「プレゼンの冒頭で『結論』を述べると、その後の成功率は1.8倍高くなる」との結果が引き出されたとのこと。
しかも、これはあくまでも仮説であるとして、実際にクライアントの社員4,513人に「成功パターン」を試してもらったところ、商談の成功率が37%から57%へと向上したとの検証もされています。ここまで徹底してチェックされているので、本書の提唱する内容はかなり精度が高いと想像されます。
ちなみに、著者の越川慎司先生は、もともとはマイクロソフト社でPowerPointの事業責任者をされていたとのこと。つまり、プレゼンテーション・ソフトのプロフェッショナルが、そのネットワークを駆使してプレゼンテーションの成功パターンを導き出したというのが本書です。
では、人工知能が見つけたプレゼンの成功パターンの核心に迫ってみましょう。それが「CREC」と名付けられたプレゼンのシナリオ作成法です。これは、
の頭文字をとったものです。
…と、これを読んで、「どっかで見たことあるような…?」と感じる方も多いでしょう。実は、プレゼンテーションの「王道」とも呼ばれるPREP(プレップ)法に極めて近いものです。PREP法は
というものですから、近いというか同じ、ですね。ここで、「なんだ、知ってたよ」と思うことなかれ。PREP法は昔から提唱されている技法ですが、その有効性がデータによって検証されている分けではありませんでした。それが、改めて有効と認識されたのは、極めて意義あることです。
本書では、スライド作成に関しても「成功パターン」が紹介されています。そのひとつが、「スライドの文字数は105文字以内」というもの。いわく、
私たちが集めた5万枚超のプレゼン資料を分析したところ、表紙と最終ページを除いた1スライドの平均文字数は、感じを含めて300文字から400文字でした。しかし、それだと文字が小さくなり、全体的に窮屈で、限られた時間に読むだけで疲れてしまいます。
と言うところから始まり、今度は「読まれるメール、読まれないメール」の分析にうつります。
メール本文の冒頭、一般的に「お世話になっております」などから始まる出だしのブロックが105文字を超えた時点で、閲覧率が一気に下がるのです。
と言う結論にたどり着きます。もちろん、これもデータに基づいて人工知能が分析したものです。そして、これを元に上述の105文字以内という結論にたどり着いたとのことです。
ここまで、類書にはない本書の特徴を中心に説明してきました。ただ、難がないわけではなくて、それは具体例に乏しいことです。たとえば上述の105文字以内、というのも、理屈では分かりますが、どうやってそのような少ない文字数に文章を練り込むかの事例がないと、途方に暮れる読者もいるでしょう。
同様にPREP法 (CREC法)のところも、たとえば最初に失敗例(悪い例)があって、その後に改善例があり、ビフォーアフターで成功率が○%上がった、のような説明があると、読者にとってはより有意義と感じました。あるいは、いっそのこと、人工知能が見つけた成功パターンをとにかく100個並べる、のような内容でも良かったのかもしれません。
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前ページ 伊藤羊一、澤円著、未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」を読む |
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「プレゼンの達人に学んで上手になりたい…」。そう思った時手にとりたいのが伊藤羊一、澤円両先生のご著書、「未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」」です。
まずは、著者のお一人、伊藤羊一先生のパートから紹介します。伊藤羊一先生は、プレゼンの本質を「相手を動かすこと」だと提唱しています。すなわち、
プレゼンが終わったときに、聞き手がどんな状態になっていればゴールなのか。そのことを突き詰めて考えることが必要です。
とのこと。では、どうやって聞き手を動かすのか。そのためのコツを、伊藤羊一先生は「相手になりきって妄想する」ことだと説きます。すなわち、聞き手がいまどんな気持ちか、何を感じているのか、を考えながらプレゼンを練り込む必要があるのです。
そして、そのためにも、主観→客観→主観と言う順序で考えることが重要とのこと。つまり、最初は主観、自分が何を伝えたいかを考えたうえで、一度客観的にそれを見るということでしょう。聞き手の立場に立って見直してみると、自分が伝えたいことは、「もっとこういう風な言い方のほうが伝わる」というのが見えてくるはずです。そして、それを再度主観的な観点から構築するという流れと理解しました。
このような考え方は、実は能の創始者、世阿弥に通ずるものがあるかもしれません。世阿弥は著書「花鏡」の中で、「離見の見」という概念を提唱しました。いわく、
というもので、まさに伊藤羊一先生が説くところと一致していると感じます。
ではつぎに、もう一人の著者である澤円先生のパートにうつります。澤円先生は、「プレゼンは、プレゼント」との提唱をされています。いわく、
プレゼントというのは、相手があってこそ成り立つものです。たとえそのプレゼントの内容(製品・サービス・テーマ)が素晴らしく、誰もがよろこびそうなものであったとしても、「誰に渡すのか」、「いいタイミングなのか」「必要性はあるのか」と言った条件やシチュエーションによって、受取手への響き方がまったく異なってきます。
とのこと。したがって、プレゼンで重要なのは相手のとっての「ハッピーストーリー」を描くことだと提唱されています。すなわち、
プレゼンで最も大切なことは、なにはさておき「顧客視点」ということになります。常に、相手にとっての「メリット」や相手に「持って帰ってほしいもの」を考えて、それを逆算しながら設計することが必要です。
となります。
このように両先生のプレゼンに対する考え方を並べてみると、伊藤羊一先生の考えのほうが一般のビジネスパーソンにはピンとくるでしょう。たとえば営業マンが客先でプレゼンテーションすることを考えてみましょう。そこでの目的は聞き手に動いてもらうこと、つまり自社の製品を買うという意志決定をしてもらうことです。そのためには、
というのがプレゼンの骨子になるでしょう。
ところが、澤円先生スタイルのプレゼンで、お客様にハッピーストーリーを届けるだけでは、営業マンとしては弱くなってしまいます。そんなプレゼンをして、会社に帰ったとして、上司との会話を想像してみました。
上司:「プレゼン、どうだった?うまくいったか?」
営業マン:「バッチリです。お客様にハッピーストーリーを届けてきました」
上司:「おぉ。要するに、受注、と」
営業マン:「いえ、受注とか、そう言うレベルの低い話じゃないんです。大事なのは、プレゼント。ハッピーストーリーを感じてもらえたので成功です」
上司:「つまり、受注ではない、と?」
営業マン:「受注ではないです。でも、当社のファンになってもらいました!」
上司:「おいおい…」
と、トンチンカンな会話になってしまいます。
実はこれは、澤円先生のご経歴とも関係していると考えます。澤円先生は、日本マイクロソフトで「エバンジェリスト」として活躍されていました。つまりは、営業ではなく、より広い「ファンづくり」がその主たる役割です。したがって、「プレゼントはプレゼント」という考えに重きが置かれています。しかも、単に目の前の営業案件だけでなく、より広くビジネスを展開して行くにはこちらの方が重要という考え方もあり得ます。そう考えると、先ほどの営業マンと上司の会話、実はトンチンカンではなく、本質を突いているのかもしれません。
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前ページ 名村拓也著、[デール・カーネギー流]1分で惹きつける プレゼンの技法を読む |
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「聞き手を惹きつけるプレゼンテーションをしたい…」。そんな風に思った時手にとってしまうかもしれないのが、名村拓也先生のご著書「[デール・カーネギー流]1分で惹きつける プレゼンの技法」です。
まずは書名になっているデール・カーネギーから。こちらはアメリカの著述家で、自己啓発の元祖とでも言うべき「人を動かす」の著者です。本書の著者の名村拓也先生は、「デール・カネーギー・トレーニング西日本トレーナー」という肩書きを持っていらっしゃるので、おそらく本書の内容もデール・カーネギーと関連していると思われます。実はここも知りたいところで、そもそもがデール・カーネギー・トレーニングとはどういうものなのか、そしてそのプレゼン手法が他とはどう異なるかを解説していただけると、本書の信憑性がより高まったと感じました。
では、具体的な内容を紹介します。
著者の名村拓也先生いわく、プレゼンの聴衆はストーリーしか聞かないとのこと。その理由として、科学者のケンダル・ヘイブン氏の言葉が紹介されています。
私たち人類は、10万年もの間、物語(ストーリー)を話すことで情報を伝達してきた。だから、私たちの脳は話を物語として捉えるようにできている
いわゆる進化心理学的な考えに基づくものでしょう。仮にこれが正しければ、よくあるプレゼンの話し方、「第1に…、第2に…」というのは聴衆に聞いてもらえないことになります。では、そもそもとしてストーリーとは何か。著者の名村拓也先生は、時と登場人物と事件が出てくるものと定義します。
ただ、この点に関しては、元祖とも言えるケンダル・ヘイブン氏の定義の方がピンとくるかもしれません。いわく、
A detailed, character-based narration of a character’s struggles to overcome obstacles and reach an important goal.
登場人物が困難を乗り越えて重要な目的を達成するまでの奮闘を詳細に描いた叙述である。
とのこと。この「困難を乗り越えて」というところが、聞き手の興味を惹きつける効果を持つのだと思います。
これに関連して著者の名村拓也先生は、話す内容の順番を変えることを提唱されています。
「わかりやすい説明」をしたい場合は、「結論」は最初に言うべきです。ビジネスの世界では、「まず結論から話す」のは常識ですもんね。ただ、プレゼンで「聴衆を感動させたい」場合、「オチ」は最後です。何があっても絶対に最後です。
この具体的なストーリーも掲載されていますので、ご興味がある方は本書49pをご覧下さい。
いろいろな発見がある本書ですが、かなり難易度高め、つまりプレゼン上級者向けと感じました。たとえば上述のストーリーも、言っていることは分かるのですが、具体的にどうやったら自身でストーリーを組み立てられるかが述べられていないため、自分で考えなければなりません。もちろんサンプルも掲載されていますが、「こういうのを自分で作れるようになるにはどうしたら良いんだろう?」と感じてしまいました。
同様に、話す順番。これも、なにを、どういう順番でと言うのがわからないと、自身でプレゼンを構成することはできません。もちろん「オチ」を最後にというのはわかりますが、そもそも「オチ」とは何かがピンときていないと、読者は悩んでしまうでしょう。
実はこれは著者の名村拓也先生の出自にポイントがあるかもしれません。冒頭に記載されていますが、関西生まれの関西育ちとのこと。いわば「お笑いネイティブ」ですから、そのような方には「オチは最後」という言葉だけで「細かいことは言わんでも、できるやんか。知らんけど」となるのかもしれません。ただ、一般の読者には正直なところ実行するのは難しいものです。この観点で、難易度高めと言うことです。
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前ページ 三輪 開人 著、100%共感プレゼン 興味ゼロの聞き手の心を動かし味方にする話し方の極意を読む |
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「聞き手の共感を呼ぶプレゼンテーションをしたい…」。そう思った時に手にとってしまうかもしれないのが三輪開人先生のご著書「100%共感プレゼン 興味ゼロの聞き手の心を動かし味方にする話し方の極意」です。
著者の三輪開人先生が勧めるプレゼンテーションの構成法が、「パブリック・ナラティブ」と呼ばれるものです。これは、
2008年の大統領選でオバマ前大統領の選挙参謀として活躍し、現在はハーバード大学ケネディスクール公共政策の上級講師を務めるマーシャル・ガンツ博士は、オバマ大統領のように「物語」を効果的に用いるプレゼン手法を「パブリック・ナラティブ」と名付け、学生をはじめ、世界のトップリーダーに教えています。
というものです。より具体的には、
なぜ行動する必要があるのか物語を通して伝えることで共感の輪が広がり、人々のアクションが変わってくるというものです。
とのこと。
の流れになります。
上記の3ステップの中から「私の物語」を見てみましょう。オバマ大統領の演説を引用します。
私の父は、ケニアの小さな村で生まれ育った留学生でした。少年時代の父は、ヤギの世話をし(中略)祖父は、息子に、より大きい夢を託していました。私の父は努力と忍耐により、奨学金を得て、魅惑の土地、米国に留学しました。
となります。そしてこれを「私たちの物語」に繋げます。
私の両親は(中略)この国の可能性に対する揺るぎない信頼も共有していました。
と、私たち、つまりアメリカ国民の話に繋げるわけです。このような構成であれば、聞き手の共感を得ることができるのでしょう。より具体的には、下記の構造で「3つの壁」を乗り越えられるとのこと。
一方で、上述のパブリック・ナラティブは、その名の通り「パブリック」、つまり公共の利益を向上するようなスピーチのためのものです。これは、多くのビジネスパーソンが行うプレゼンテーションとは、ねらいが異なると想像します。
たとえば、営業活動の一環でのプレゼンテーションで、「私の物語」からはじめたら、聞き手は「ちょっと待て。お前の話なんか聞きたくない」と思ってしまうでしょう。そのような場合はむしろ、「あなたの物語」、つまりお客様の企業はどんな状況で、どんな問題を解決するかを説明することが有効です。
このように、本書が取り上げているプレゼンテーションが特殊なのには理由があって、著者の三輪開人先生は、世界の社会問題を解決するNPO法人e-Educationの代表を務められているからです。従ってビジネスパーソンが読む時には、どうやって活用するかの工夫が必要です。
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「エレベーターピッチをマスターしたい…」。そう思った時に手にとってしまうかもしれないのが小杉樹彦先生のご著書「世界一わかりやすい 20秒プレゼン実践メソッド 特別講義 -The Elevator Pitchの魔力-」です。
まずはエレベーターピッチとは何かから。著者の小杉樹彦先生は、エレベーターピッチがあらゆるコミュニケーションの基礎に当たるとして、下記の3つのメリットを説きます。
そして、
圧倒的不利な状況から、短時間で奇跡の大逆転を起こす方法論
であると提唱しています。ちなみにエレベーターピッチの由来としては、
起業家がエレベーターの中で投資家と遭遇したときに、目的の階に到達するまでの20秒足らずの間で、自身のビジネスプランをプレゼンしたことから、そうなづけられたといわれている
とのことです。
では、このエレベーターピッチを上手にやるためにはどうしたらよいか。著者の小杉樹彦先生が提唱しているのが、「ダイヤモンド・メソッド」です。これは、
からなるもので、図で整理するとダイヤモンド型になっているのでこの名称をつけたとのこと(詳しくは本書81pを)。
この中から、「フック」を紹介しましょう。これは英語で「鉤」を意味し、
相手の注意を引くねらいで使う言葉やもののことである
とのこと。そのためには、
と言う3つのパターンがあるそうです。
このパートは、読者としては「分かったような、分からないような」という感想です。言ってること自体は分かりますが、では具体的にはどのようなセリフになるかイメージがつかめないためです。具体的な例もあると、より本書の説得力が増すのではないでしょうか。
プレゼンテーションと言えば、質疑応答が定番。そのための想定問答を事前に準備することを著者の小杉樹彦先生は提唱しています。とはいえ、どんな質問が出てくるか分からない場合もあるでしょう。そんなときのために、いくつかの質問が本書では紹介されています。
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「数字は嘘をつかない」と言う言葉とともに、事実<ファクト>を押さえることの重要性は、言うまでもありません。ただ、「嘘つきは数字を使う」という言葉もあり、気をつけないとファクトのはずが、だまされているなんてことも起こります。それを避けるためにチェックしたいのが、kanata先生のご著書、「ダマすプレゼンのしくみ 数値・グラフ・話術・構成に隠された欺く手法とその見破り方」です。
「百聞は一見にしかず」なんて言って、目で見たことはそのまま事実<ファクト>であると思いがちですが、これが危ういのはご存じの通り。とくに、メディアを通して見る映像は要注意です。この事例として本書で紹介されているのが、蒙古襲来絵詞。え?あの、歴史の教科書に載っているやつ?と以外に思うかもしれないのですが、まさにこれ。
私たちがよく知っているのは、真ん中にある日本の武者が乗っている馬がお腹から血を流しているものです。解説は、蒙古軍の集団戦法の前に武士が苦戦する、というものです。ところが、他の絵を見ると、鎌倉武士が蒙古軍を圧倒しています。実はこの絵詞、鎌倉軍が優勢な状況を描いたものだそうです。
もっとも、ここまで来ると何が真実かは分からなくなります。本当に鎌倉軍が優勢だったのか、あるいはこの絵自体がファクトの一部しか切り取っていなくて、本当のところは逆だったのではないか…。考えてみれば、この絵詞は作者不詳なので、いっそうその信憑性に疑問が生まれます。
本書の素晴らしいところは、メラビアンの法則をしっかりと解説しているところです。よく、
コミュニケーションにおける重要性は、言語情報7%、聴覚情報38%、視覚情報55%
と説明され、これに基づき「資格情報は大事ですよ~」と言う説明につながります。
ところが、実はこれは提唱者のメラビアン先生の考えを曲解したものです。なぜならば、上記の数字はそれぞれのメディアが「矛盾した情報を発している時」の分析だからです。たとえば、ものすごく怒った顔をしながら、「怒ってませんよ (怒)」と言葉で言っても、視覚情報の怒り顔の方が55%の重みを持つ、というのがもともとの意味合いです。
世の中ではメラビアンの法則を誤解、あるいは自分の都合の良いように解釈して視覚情報の重要性を訴える人がいますが、本書の立場は極めてまっとうと言えるでしょう。(詳しくは本書の21pを)。
では、上記のようなアヤシいプレゼンにだまされないためにはどうしたらよいか。著者はいくつかのコツをあげています。たとえば、「3Dグラフは確信犯」というもの。3Dグラフというのは、エクセルで簡単に作れる3次元グラフのこと。ところが、これはだましの温床なのだとか。
筆者はこういった3Dグラフを見た瞬間に、プレゼンテーションとスピーカーへの信頼度が一気に下がります。この信頼度の低下はグラフの部分に限らず、資料全体とスピーカー本人の信頼にまで影響します。すべてを疑わないといけないと覆う程度のリスクを感じます。
とのこと。
同様に、言葉の使い方も重要だとか。たとえば、「正しく」、「適切に」、「最適な」という表現。
筆者は、もし仕事上の書類でこのような表現があったら、具体的な表現に修正するように働きかけます。プレゼンテーションにおいても同様に確認する必要があります。何が「正しい」のか、何が「適切」なのか、どうなることが「最適」なのかが不明瞭だとプレゼンテーションする側とプレゼンテーションを聞く側の認識に齟齬が生まれるためです。
と言うことです。
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「プレゼンで緊張しちゃうんですけど…解決するために心理学を使えないか」。そう思った時に手にとってしまうかもしれないのが下野孝一、吉田竜彦両先生のご著書「プレゼン基本の基本: 心理学者が提案するプレゼンリテラシー」です。
著者の下野、吉田両先生が提唱しているプレゼン緊張防止の方法論が、
プレゼンに緊張するのは当たり前ですから、あえて自分で自分を見つめてみて、「自分は緊張しているのだな」と再確認してみるのです。これは緊張した自分を意識しすぎて、さらに緊張してしまうという悪循環を防ぎ、自分を客観的に眺める「知性化」と呼ばれる方法です。
というもの。さすがに心理学の先生だけに、説得力があります。ただ、この「知性化」、具体的な方法論がないのが残念なところ。というのは、客観的に自分を見直すことで緊張を抑えることができるというのは、多くのプレゼンターは理解しているところ。問題は、これができないことにあります。「客観的に自分を眺めるといっても…、どうやって?」と言う悩みへの、心理学的な観点からの示唆があると本書の価値が上がると感じました。
本書には、ところどころに「心理学ミニ知識」挟まれていて、興味をかき立てられます。その一覧が下記です。
この中から、「破壊的リーダーシップ行動とプレゼン」を見てみましょう。まず、破壊的リーダーとは、部下の意欲を奪いストレスを与え、精神的に追い込むというネガティブなリーダーです。ところが、このような人たちは自分の実力以上によく見せるのが得意で、結果としてプレゼンテーションが上手だという説があるのです。しかも、そのような人は人から賞賛することが好きですから、プレゼンの練習も熱心に行い、ますますプレゼン上手に。ということは、プレゼンの上手、ヘタだけでリーダーとして的確かどうかを決め手はいけないということでしょう。
本書は110ページぐらいの薄さに、プレゼンテーションの多くの要素を盛り込んでいます。下記、目次を記載するので見ていただければ、幅広くプレゼンに必要な要素がカバーされているのが分かるでしょう。
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「プレゼンで使うパワーポイントに、もっと慣れたいんだけど…」というときに手にとりたいのが渡辺克之先生のご著書、「世界一やさしい プレゼン・資料作成の教科書 1年生」です。
結論から言うと、パワーポイント初心者向けです。逆に、パワーポイントはある程度使える人が、プレゼンテーションの資料作成のノウハウを知りたいと読むと、期待外れでしょう。
箇条書きはプレゼンテーションでよく見るスタイルですが、「どうやってつくるのか」を初心者向けに改めて説明した本は少ないように思います。その点で本書は親切で、懇切丁寧に解説してくれています。それが148pの「箇条書きのつくり方」で、
というもの。3番目の「正しく扱う」というのは、
内容が並列なら中黒(・)、順番なら①②などの行頭文字を使って表す。
と言うこと。そして、これを実際にパワーポイントでつくるやり方が解説されています。とくに、Shift+Enterキーで段落内改行を解説しているところは親切だと思います。
プレゼンテーションでよくある図解についても詳しく解説されています。基本としては、
図形を説明する文字は、テキストボックスの文字を重ねることをお勧めします。この方法は、図形の形状と大きさにさほど制約を受けず、自由な位置に文字を置くことが出来ます。
とのこと。たしかに、見栄えに徹底的にこだわるのであれば、こちらの方が正解です。ただ、このやり方だと作成するのに時間がかかるうえ、スライドの使い回しの際に思わぬ調整が発生して時間がかかるものです。そこで、図形内に文字を入れる方法も紹介されています。その際に見栄えを良くするための工夫が下記の3点です。
これ、実はすごく実用的なアドバイスです。というのは、多くの人は図形内で文字を折り返すという設定のままパワーポイントを使っているから。これだと文字を臨んだ位置に配置できずに、微妙な見にくさが出てしまいます。しかし、文字を自動では折り返さない設定にして、上述のShift + Enterで自分で折り返すようにすれば、それだけで見栄えアップです。
初心者向けにパワーポイントの使い方を解説するという本書の趣旨を踏まえると、やむを得ないところではありますが、プレゼンの内容面に関してはもう少し詳しい解説が聞きたかったところです。たとえば、33pの「必ずストーリーを描こう」というところ。この提言自体は正しいものですし、起承転結を否定しているところも妥当です。
とはいえ、読者としてはそのストーリーが描けないから悩んでいるわけであって、「どうやったら説得力のあるストーリーが作れるのか」の解説があるとより親切でしょう。もちろん、著者の渡辺克之先生も、
という「型」を示していいますが、これはモノゴトの説明の順番であって、「ストーリー」ではありません。むしろ、33pに記載されている目的→根拠→お願い、をより詳しく知りたいと思いました。
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ときどき、「スティーブ・ジョブズみたいなプレゼンがしたいんです」という人がいますが、そんな人が手にとってしまうかもしれないのが岡本純子先生のご著書、「世界最高の話し方――1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた! 「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール」です。
著者の岡本純子先生がまず強調されているのは、「聞き手中心のコミュニケーション」です。
多くの日本人は「言えば、伝わる」とばかりに、やみくもにボールを投げ続けています。その「得意球」が「自分が話したい話」ですが、あまり受け止めてはもらえません。(中略)人は「自分が聞きたい情報だけ」を受け入れる生き物と言うこと。(中略)「自分への執着やエゴ」を「手放す」、つまり、自分視点を「離す」ことが、「話す」ことを上達させる第一歩になるのです。
これは、雑談の時はもちろん、プレゼンテーションにおいても当てはまります。逆に言えば、プレゼンが下手な人というのは、この点を分かっていないものです。結果として、「当社の製品は…」、「他社との差別化は…」のような、自分の話が中心になってしまうのです。そうではなく、相手が聞きたいこと、すなわち、お客様自身の「ウチの会社の問題を解決してくれるのか?」にフォーカスを当てることが正解です。
次に著者の岡本純子先生が提唱されているのが「語感をくすぐる言葉で相手に絵を見せる」という手法です。これがバツグンに上手い人として、スティーブ・ジョブズ氏の事例が出されています。
スティーブ・ジョブズは、有名なスタンフォード大学のスピーチで、「貧乏だった」という代わりに、こう表現しました。私は(大学の)寮の部屋もなく、友だちの部屋の床の上で寝起きしていました。食べ物を買うために、コカ・コーラの瓶を店に返し、5戦をと書き集めたりもしました。(後略)
これならば、聞き手の気持ちをグッと惹きつけることができます。
なお、本書のこのパートでは「相手に絵を見せる」ということで、ビジュアルな説明が中心ですが、実際上はVASKの法則と呼ばれる、4つの感覚をプレゼンに盛り込むと、イキイキとしたプレゼンが出来ます。これは、
の頭文字をとったものです。実は人によってこの4つの中でどこに心惹かれるかは分かれるという説があります。したがって、視覚優位なビジュアルタイプの人には上述の「絵を見せる」という説明が響きますが、聴覚優位の人には響かないこともあり得ます。その場合には、たとえば、
コカ・コーラの瓶をお店に持っていくときの、「カチャカチャ」という瓶がふれあう音は、いまでも耳に残っています
のような説明をすると、より効果的に伝えることが出来るでしょう。
著者の岡本純子先生がもう一つ提唱されているのが、言いたいことを一言でまとめるクセをつけるということです。
もっとも訴えたい結論やキーメッセージをインパクトのある強い一言にギュギュッと凝縮する工程は、雑誌や新聞の記事に、タイトルや見出しをつけるようなものです。
という前提で、
まずは、一言「13文字以内」が目標です
とのこと。この根拠として、新聞の見出しが1行9-11文字で2行だとあわせて20文字程度、そしてYaooニュースの見出しが13文字であることを挙げています。
ただ、これはどちらかというとビジュアル寄りの説明と感じました。言葉メインのプレゼンでは、13文字は3秒足らずで終わってしまいます。たとえば13文字はキャッチフレーズ的にパワーポイントで示しておいて、言葉での説明は75文字、15秒程度の短文言い切りを積み重ねていくというスタイルで理解してもよいと思いました。
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プレゼンテーションはビジネスパーソンにとってハードルが高い分野ですが、エンジニアの方はなおさらそう感じるようです。そんな方が手にとってしまうかもしれないのが、渡邉 秀美先生のご著書、「客先に連れ出されてしまったエンジニアのためのプレゼン力向上講座」です。
著者の渡邉 秀美先生は、ご自身でプレゼンをするときには原稿を用意してそれを読むというスタイルだそうです。これは、プレゼンテーションが「自分中心」になってしまうため、一般的にはお勧めしません。ただ、現実問題として、書名にあるような「客先に連れ出されてしまったエンジニア」の方は、そのようなスタイルになってしまうこともあるのでしょう。
その際、原稿を用意したときに陥りがちな「棒読み口調」を避けるための方法論が面白かったので紹介します。それが、エモーショナル音読というもの。これはプロのナレーターの方から教えてもらった手法とのことで、
原稿を読む際、漢字の読みを書き込み、不自然なところで切らないように、息継ぎの場所に斜め線を入れています。さらに、読みに強弱を入れるために、強調したい部分に○印をつけます。
というものです。
サンプルが本書138ページから掲載されており、それを使った3ステップの練習方法も紹介されています。そして、その練習の際に大事なのが、録音すること。さらに録音を聞いて10点満点で点数をつけることで、自身の成長度合いを可視化するという方法を提唱されています。
プレゼンテーションの内容面に関しては、お客様に提供する価値を中心に構成することを提唱されています。これを整理するのが、
という4ステップ。たとえば、データセンターで自動バックアップをとる機能を提案する際には、下記のようになります。
というものです(さらに詳しい記載が、本書178pにあります)。
一方で、この整理の仕方はまだ「自分中心」と感じてしまいます。本当に顧客に響くプレゼンテーションを構成するのだったら、お客様の抱える問題を中心に考え、それを中心に構成した方がよりよいのではないでしょうか。その際には、高杉尚孝先生が提唱されている、TH法による3つの問題の定義が有効であることはいうまでもありません。
エンジニア特有のプレゼンテーションの悩みとして、「どうしてもシステム目線になってしまいがち」というものへの対処法も本書では紹介されています。そもそもとして、エンジニア目線は、
などが重要視されがちです。それを、お客様目線だと、
などが重要になります。これを切り替えるためにお勧めなのが、
社内にいらっしゃるアルバイトや派遣会社の事務職の方、(中略)必ず部外者に一度聞いてもらい、分からない語句や意味不明なところを教えてもらう
という手法です。確かにこれならば、視点の切り替えも出来そうです。
ただ、どうせならば、お客様と近い立場の人に事前に聞いた方が効果的ではないかと思いました。他社へのプレゼンで、聞き手がその会社のアルバイトや派遣社員であることはまず持ってないでしょう。であれば、あいてのキーパーソンに近い年齢・職種の方を確保しておいて、意味不明なところを教えてもらえるようになると、さらに効果的でしょう。
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「プレゼンテーションで使うジェスチャーを研究したい…」そう思ったとき手にとってしまうかもしれないのがヨッヘン・バイヤー先生のご著書「プレゼンのパワーを最大限にする50のジェスチャー」です。
まず結論ですが、本書で扱うジェスチャーの多くは、欧米人向けのプレゼンテーションでこそ使うべきです。逆に言うと、日本人が日本人に対して行うプレゼンテーションでは、あまり利用のシーンがないでしょう。それもそのはずで、著者のヨッヘン・バイヤー先生は、ドイツのシュヴェービッシュ・グミュント教育大学の教授。米国ではミシガン州グランドバレー州立大学でも教鞭を執ったご経験もあるそうですが、生粋の欧米人です。
とはいえ、テクニックの内いくつかは日本人にも気づきを与えてくれるので、本書表の後半で紹介します。
まずは、欧米人向けのプレゼンテーションのテクニックの紹介から。たとえば、テクニック4で紹介されている「片手を無造作にズボンのポケットに入れる」というもの。著者いわく、
姿勢のよさは人を大きく見せる。男性の場合は、片手を無造作にズボンの前ポケットに入れることで、その存在感をさらに強調できる。
ということですが、日本人向けのプレゼンテーションではよっぽどの理由がない限りポケットに手を入れることはしません。外国人なら、「かっこいい~」となるかもしれませんが、日本人がやったら間違いなく「ずいぶん傲慢なヤツだな」と思われます。
似たような話として、テクニック19の「聴衆にウィンクする」というもの。しかもご丁寧なことに、
少しアレンジを加えて、たとえば、ウィンクをするときに指を2本こめかみに当てると、注意喚起力はもっと高くなる。
という説明がイラスト付きで紹介されています。これも、「絶対」と言っていいくらい日本人向けのプレゼンテーションではないでしょう。
ただ、逆に言うと、たとえば欧米のピッチコンテストに出場する場合などは、本書にあるくらいオーバーな(と日本人には思える)ジェスチャーを身に付ける必要はあるでしょう。
一方で、日本人にも「使える」と思ったテクニックの代表格がテクニック1の「相手の『第三の目』を見る」というもの。これは、
相手に視線を向けるときは、相手の目を見るのではなく、その眉間あたりに「第3の目」があると思って、そこを見つめるとよい。そうすれば、自分の優位性をうまく示すことができる。
というものです。「ほんとうかなぁ」と思うかもしれませんが、次の説明は納得感がありました。
さまざまな研究の結果、社内で高い役職についている人ほど、ごくたまにしかアイコンタクトをとらないことが明らかになっている。「周りとコミュニケーションをとることに関心がない」という態度をとることで、自分の地位の高さを示しているのだ。
たしかに、会議でも人の話を聞いているんだかいないんだか、目をつむったままの偉い人がときどきいますが、あんな感じなのでしょう。であれば、第三の目を見ることで、微妙に目を合わせているのだか、目を合わせていないのだかで「偉い人感」を演出するのは「あり」だと思いました。
ちなみに、この第三の目と対をなすのが、テクニック10の「相手の『心の目』を見る」というもの。これは、
相手の鼻を3等分した一番上あたりに目を向ければ、視線の持つプラスの作用を強めることができる。
というものです。要するに、アイコンタクト一つとっても漠然とやるのではなく、目的を持って細かく使い分けようと言うことでしょう。
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「プレゼンテーションの時のジェスチャーを学びたい…」そう思う人に手にとっていただきたいのが荒木シゲル先生のご著書「伝わり方が劇的に変わる! しぐさの技術 (DOBOOKS) (日本語)」です。
著者の荒木シゲル先生は、ジェスチャーを含めた非言語(ノンバーバル)と言語(バーバル)が一致することがコミュニケーションにおいては重要であると提唱しています。
「楽しいです」と言いながら、態度ではそう見えないとき、つまり「バーバル」と「ノンバーバル」の矛盾が起きてしまったとき、相手はあなたの言葉を疑います。
という指摘は、プレゼンテーションにおいては特に重要でしょう。どれだけ口では「御社のためになるご提案をします」と言っても、早口で落ち着きない態度だったら、聞き手はその内容を疑ってしまうでしょう。したがって、プレゼンテーションの準備においては、内容を固めることも大事ですが、同時にジェスチャーも十分に練り込む必要があるでしょう。
では、どうやってジェスチャーを練り込むかと言うときに参考になるのが、「ステイタス」という概念です。もともとは演劇用語だそうですが、ある状況における関係者の力関係を表す言葉です。より詳しく言うと、
ステイタスが高ければ、権力が強く「相手を支配できる立場」です。また、ステイタスが低ければ、力が弱く「支配される立場」です。
となります。そして、プレゼンの場においては、もちろん目指すべきはステイタスが高い姿です。そのために、下記の三つの強さを体現する姿が提唱されています。
なお、この強いポーズと弱いポーズを対比したイラスト入りで本書65pから解説されていますので、ご興味がある方はぜひチェックして下さい。
ここまで、プレゼンでは「強い」ポーズ、もしくはステイタスが高くあるべきだと言う立場で紹介してきましたが、実は本書の魅力はそれ「だけ」を進めているのではない点です。
むしろ、ステイタスが変わる瞬間にこそほんとうに人を引き付けるポイントがあるのではないかとの提唱がされています。
人がおもしろいと感じる「ドラマチックな瞬間」をステイタスで説明すると、キャラクター同士のステイタスのレベルの高低差が大きいとき、キャラクターのステイタスが急激に変化するとき、複数のキャラクターがステイタスの高さを競い合うとき
とのこと。プレゼンテーションに活かすならば、立ち居振る舞いにおいてもステイタスの高低を使い分けることで、メリハリを出すことができるのではないでしょうか。たとえば、顧客の直面している課題を指摘するときにはあえて「弱い」ポーズをとる、それを解決するための提案をするときは「強い」ポーズをとる、という応用はあり得るでしょう。
下記、ここまで紹介した以外の学びがあった点をピックアップします。
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プレゼンテーションで聞き手を説得しようと思ったら、言い回し1つにもこだわりを持ちたいものです。そんなとき参考になるかもしれないのが下地寛也先生のご著書、「プレゼンの語彙力 おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全」です。
著者の下地先生の目的は、
スティーブ・ジョブズのようなプレゼン力をすべての人に提供する
ことだそうです(「はじめに」)。
その観点でプレゼンテーションを考えると、大事なは言い回し。つまり、
プレゼンの上手い人の共通点は…相手の心に響く言い回しをたくさん知っていること。つまりプレゼンのボキャブラリー(語彙)が豊富なのです。
とのこと。これを、
という7つの側面から学べるのが本書の特徴です(ちなみに3ページには「共感」が2回出てきますが、これは「興味」の誤植かと思われます)。
具体的に見てみましょう。まずは第1章、「自信を示す」言い回しでは、「壮大な敵をライバル視する」というテーマで下記の例が示されています。
このサービスを世界一に育てましょう→グーグルを一緒にやっつけましょう
(矢印の左側がありがちな例、右側がそれを改善した例)
すなわち、
具体的なライバルを示すほうが、聞き手はイメージしやすく話のスケール感がハッキリと伝わります
とのこと(11p)。
言われてみればスティーブ・ジョブズ氏もこの話法をよく使っていて、たとえばiPadを最初に紹介したプレゼンテーションでは、キーボードをいわば「壮大な敵」に仕立て上げ、「キーボードなんかつまらない。私たちにはもっと素晴らしいポインティング・デバイスがあるじゃないか。それが指だ!」という言い方をしていました。
これらの表現が全100個も載っているので、かなり本書はお得感が高いのではないでしょうか。下記、「自信を示す」、「興味を引く」からいくつか紹介します。
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スピーチや講演からも、プレゼンテーションの学びがあるのではないか?
そんな風に思う方に手にとって欲しいのが、鴨頭嘉人先生のご著書、「今まで誰も教えてくれなかった人前で話す極意 〜年間330講演 プロの講演家が語るスピーチのコツ〜」です。
まずは、著者の鴨頭先生のご経歴。19歳でマクドナルドにアルバイトとして入社されて、店長まで昇進。32歳の時に、マクドナルド3300店舗中、お客様満足度・従業員満足度・セールス伸び率全国1位を達成されたとの事。その後講演活動に転じて、現在は本の副題にもあるとおり、年間で330日、つまりは毎日のように講演されている方です。
ただ、面白いのは、「日本一最低な店長」だったという黒歴史もあるとか。青森県弘前市のマクドナルドで、前々お客様が来てくれず赤字続きだったのを大逆転したというストーリーもお持ちで、そこら辺が講演活動に転じた原動力なのかとも想像しました。
注目すべきは本書の仕立て。というのは、youtubeと連動していて、その章で解説されていることが、実際のyoutube動画で見ることができます。題材がスピーチなので、これはとてもわかりやすい構成だと思います。
たとえば、スピーチの原稿をどう用意するかを説明した第2章9節。そもそもが、スピーチを5分以内のショートスピーチと5分以上のロングスピーチに分けたうえで、ショートスピーチの場合はフル原稿を、ロングスピーチの場合はトリガー原稿を作ることを推奨されています。
そして、それを解説したのが下記の動画。
尺が3分ちょっとですから、今風に言うとマイクロラーニングで、ピンポイントで知りたいことだけ学ぶことができて便利です。
このような動画へのリンクが40個以上盛り込まれていますから、本よをんで動画を見る、動画を見て本を読み返す、と往復運動でスピーチ力が上がりそう。
具体的なテクニックで面白いと感じたのが、聞き手に共感してもらう方法論です。大前提としては、聞き手に共感してもらうためには、相手の立場を考えた話をする必要があります。その際、聞き手がどんな人なのか、創造力を働かせるのが大切だとのこと。
人前で話す機会がある方は、聞き手の方の日常を想像する力を養う事によって、忘れられない珠玉のメッセージを届ける事ができるようになるのです。
というポイントは、なるほどと思わされました(144p)。
これを実践するために、鴨頭先生は自身が主催する話し方の学校の生徒さんに、
通勤電車の中で、目の前の乗客の日常生活を想像してみよう
と言う宿題を出されるのだとか。もちろん、実際のところは分かりません。しかし、服装、持ち物、動作、肌の色艶などから、その人の仕事や性格、悩みや喜びを想像するのです。
そのようなトレーニングを繰り返す事により、聞き手を想像する力が高まり、結果としてどのような聞き手からも、「これは私たちの話だ」と思ってもらえるのだとか。印象的なエピソードでは、鴨頭先生がタクシー業界に招かれて講演したとき。業界の事はご存じなくても、
タクシードライバーの人がいなかったら、今自分はどれだけ困っただろう?
と思いをはせる事で、
タクシードライバーの方は世の中の困っている人を、1年365日24時間探して探して助け続けているスーパーヒーローなんです
と言うメッセージにたどり着いたとの事です。
プレゼンと講演(スピーチ)は、同じ人前で話すと言っても目的が異なります。講演やスピーチの場合、話して聞き手に共感してもらい、満足してもらえばそれで成功でしょう。しかし、プレゼンの場合には、LeADER原則、すなわち
聞き手に期待した行動をとってもらう事
が目的です。ところが、これがピンときていなため、プレゼンで失敗する人があまりにも多すぎます。
自分が話したい事を話すのではなく、聞き手が聞きたい事を話してイエスを引き出すのがプレゼンです。そのためには、上記の聞き手に思いをはせるというのは、とても役立つと感じます。
ましてや、プレゼンの場合、講演とは違って聞き手はある程度絞られています。営業だったらアタック先の意志決定者、社内の会議だったら具体的に○○さんという名前まで分かるでしょう。
そのうえで、聞き手の方に思いをはせて、この人が今解決したいと思っている問題は何かを考えれば、それだけでプレゼンの成功につながるというものです。
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クロトンビル研修所はご存じでしょうか?米GE(ゼネラル・エレクトリック)のリーダーシップ養成機関で、数多くの名経営者を輩出したことで知られています。そこで教えられているプレゼンテーション研修を紹介してくれているのが、田口先生のご著書「世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本」です。
プレゼンテーションと言っても、その内容が多岐にわたります。クロトンビルをはじめとしたGEの研修では、その中でも
と言う二つの要素を重点的に教えられるとのことです。
逆に言うと、スライドの作り方には重点が置かれていないとのこと。最近の日本ではデザイナーの人が書いたスライドのデザイン面にフォーカスした本が売れている傾向にある気がします。たとえば色使いやフォントの種類や大きさなど。もちろんそれはそれで重要なのでしょうが、GEでは、
「伝え方」も大切ですが、それより「何を伝えるか」がもっと重要である
とのことで(6p)、上述のようにメッセージにフォーカスが当てられているのでしょう。考えてみれば当たり前で、どれだけデザイン面で優れたスライドでも、中身がスカスカでは意味が無いので、このアプローチは正統的だと感じます。
では、どうやって簡潔なメッセージを作成するかと言うとき参考になるのが、プレゼンテーションを「削る」と言うトレーニング。
「まず、書いてあるものを3分の1にして、さらにそれを3分の1にしてください」
と言う指示で研修が進むそうです。これによって、そのプレゼンで何が言いたいかという「コア・メッセージ」が明確になるとのこと。
ちなみに、3分の1を2回繰り返すので、ボリューム的には最初のバージョンの9分の1になるので、研修参加者から、
「最初から9分の1にしてはいけないのですか」
と言う質問も出るそうですが、これは、
「脳の仕組みによって、2段階に分けて絞り込んだ方がスムーズに作業できます」
とのこと。一般の人はクロトンビルの研修に参加するわけにはいきませんが、このテクニックなら取り入れられそうです。
なお、96ページには、コアメッセージを中心にどのようにプレゼンを構成するかのテンプレートが掲載されています。これは、コア・メッセージを中心にA4の用紙を4つの証言に分けたもので、上から反時計回りに、
からなるものです。サンプルでは、「どのようにすれば経営幹部の候補者不足を解消できるか」というコア・メッセージが示されているので、コア・メッセージは「そのプレゼンで言いたいこと」というよりも、「そのプレゼンで解決すべき課題」という捉え方でいいのかもしれません。
このテンプレートでメッセージを固めたら、次のステップとしては、ストーリー・ボーディングの作成に取りかかるとのこと。パワーポイントではなくてポストイットを使うことを著者は提唱していますが、先ほどのテンプレートで考えたポイントを転記していくアプローチです。これによって、プレゼンテーションの1枚1枚のスライドのタイトルだけを作成していくことになります。そして、このタイトルだけを見ながら、
「書かれている言葉の抽象度・具体度にばらつきがないかどうか」
を確認しながら中身を詰めていくとのこと。
なお、一歩引いた視点からは、著者は「プレゼンテーションのABCD」というプロセスを提唱しています。これは、
Analyze Audience それぞれ聞き手の分析
Build Message メッセージ構築
Construct Slide スライド構成
Deliver Presentation 伝え方の工夫
からなるもので、先ほどのポストイットを使ってスライドのタイトルを並べるというアプローチは、「メッセージ構築」と「スライド構成」の間をつなぐものと理解しました。
様々な内容を紹介している本書ですが、不満があるとすれば、実際にGEではどのようなプレゼンのスライドを使っているのか見えないこと。もちろん、スライド作りは重要視していないのでしょうがないのですが、それでも「じゃあ、最終形はどうなるの?」というのを知りたいのは人情というものです。
そこで、youtubeで実際のプレゼンを見つけてきました。どちらも基調講演(Keynote speech)なので、いわゆる「プレゼンテーション」とはちょっと違いますが、それでも本書のニュアンスは感じ取ることができます。
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