「プレゼンの達人に学んで上手になりたい…」。そう思った時手にとりたいのが伊藤羊一、澤円両先生のご著書、「未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」」です。
プレゼンとは相手を動かすこと
まずは、著者のお一人、伊藤羊一先生のパートから紹介します。伊藤羊一先生は、プレゼンの本質を「相手を動かすこと」だと提唱しています。すなわち、
プレゼンが終わったときに、聞き手がどんな状態になっていればゴールなのか。そのことを突き詰めて考えることが必要です。
とのこと。では、どうやって聞き手を動かすのか。そのためのコツを、伊藤羊一先生は「相手になりきって妄想する」ことだと説きます。すなわち、聞き手がいまどんな気持ちか、何を感じているのか、を考えながらプレゼンを練り込む必要があるのです。
そして、そのためにも、主観→客観→主観と言う順序で考えることが重要とのこと。つまり、最初は主観、自分が何を伝えたいかを考えたうえで、一度客観的にそれを見るということでしょう。聞き手の立場に立って見直してみると、自分が伝えたいことは、「もっとこういう風な言い方のほうが伝わる」というのが見えてくるはずです。そして、それを再度主観的な観点から構築するという流れと理解しました。
このような考え方は、実は能の創始者、世阿弥に通ずるものがあるかもしれません。世阿弥は著書「花鏡」の中で、「離見の見」という概念を提唱しました。いわく、
- 我見(がけん):能役者の自分の視点
- 離見(りけん):能を見ている観客の視点
- 離見の見 (りけんのけん):観客の視点で自分を見直している視点
というもので、まさに伊藤羊一先生が説くところと一致していると感じます。
プレゼンはプレゼント
ではつぎに、もう一人の著者である澤円先生のパートにうつります。澤円先生は、「プレゼンは、プレゼント」との提唱をされています。いわく、
プレゼントというのは、相手があってこそ成り立つものです。たとえそのプレゼントの内容(製品・サービス・テーマ)が素晴らしく、誰もがよろこびそうなものであったとしても、「誰に渡すのか」、「いいタイミングなのか」「必要性はあるのか」と言った条件やシチュエーションによって、受取手への響き方がまったく異なってきます。
とのこと。したがって、プレゼンで重要なのは相手のとっての「ハッピーストーリー」を描くことだと提唱されています。すなわち、
プレゼンで最も大切なことは、なにはさておき「顧客視点」ということになります。常に、相手にとっての「メリット」や相手に「持って帰ってほしいもの」を考えて、それを逆算しながら設計することが必要です。
となります。
二つのプレゼンの違いの本質
このように両先生のプレゼンに対する考え方を並べてみると、伊藤羊一先生の考えのほうが一般のビジネスパーソンにはピンとくるでしょう。たとえば営業マンが客先でプレゼンテーションすることを考えてみましょう。そこでの目的は聞き手に動いてもらうこと、つまり自社の製品を買うという意志決定をしてもらうことです。そのためには、
- 我見:自社の製品の説明をする
- 離見:お客様から見た自社製品のメリットを示す
- 離見の見:客観的に見ても、お客様にとっては自社製品を導入することがベストだと納得する
というのがプレゼンの骨子になるでしょう。
ところが、澤円先生スタイルのプレゼンで、お客様にハッピーストーリーを届けるだけでは、営業マンとしては弱くなってしまいます。そんなプレゼンをして、会社に帰ったとして、上司との会話を想像してみました。
上司:「プレゼン、どうだった?うまくいったか?」
営業マン:「バッチリです。お客様にハッピーストーリーを届けてきました」
上司:「おぉ。要するに、受注、と」
営業マン:「いえ、受注とか、そう言うレベルの低い話じゃないんです。大事なのは、プレゼント。ハッピーストーリーを感じてもらえたので成功です」
上司:「つまり、受注ではない、と?」
営業マン:「受注ではないです。でも、当社のファンになってもらいました!」
上司:「おいおい…」
と、トンチンカンな会話になってしまいます。
実はこれは、澤円先生のご経歴とも関係していると考えます。澤円先生は、日本マイクロソフトで「エバンジェリスト」として活躍されていました。つまりは、営業ではなく、より広い「ファンづくり」がその主たる役割です。したがって、「プレゼントはプレゼント」という考えに重きが置かれています。しかも、単に目の前の営業案件だけでなく、より広くビジネスを展開して行くにはこちらの方が重要という考え方もあり得ます。そう考えると、先ほどの営業マンと上司の会話、実はトンチンカンではなく、本質を突いているのかもしれません。
画像はアマゾンさんからお借りしました。
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