「プレゼンの資料作成をどうしたら良いか…」なんて悩んでいる人が思わず手に取ってしまうのが、「マンガでやさしくわかる資料作成の基本」。ただ、本書の魅力は外資系コンサルが使うハイレベルな技なので、普通の事業会社に勤めている方ならば、資料作成とプレゼンの上級者になってから読むのが安全です。ちなみに、「コンサル」と言ってもシステム系のコンサルっぽいので、戦略系のコンサルトは若干タイプが違うとお見受けしました。なので、システム系の仕事をしている方には、本書のテクニックがより響くのかもしれません。
プレゼン初心者は注意深く読み進めるべし
著者の吉澤先生は外資系コンサルティング会社勤務とのことなので、その世界では「当たり前」なのかもしれませんが、読みが浅い初心者が形だけ本書のマネをしようとすると、思わぬヤケドをしてしまいそう。たとえば、「相手の理解度に応じて情報の細かさを決める」というパートでは、こんなエピソードが紹介されています(77p)。
ある商品の売上が3ヶ月連続で前年比を下回っていたとしましょう。しかし、その商品を担当する社員は「いくつかの要因が運悪く重なって売上が落ちてしまっただけ」であると確信していました。数値データに従えば、今後も商品の売上は低下する可能性が高いから、何らかの手を打つ必要があると言えます。一方で、現場担当者の見通しを信じるのであれば、来月からは売上は改善するため、他の課題に取り組むべきであると判断することもできます。
このような状況でプレゼンする際には、下記のような提言が本書ではなされています。
データ重視する相手に対して、現場意見重視のアプローチで結論を出しても、「担当者の言ってることも分かるけど、数値傾向は無視できない」と反論されるのは明かです。
いや、普通に考えれば、その現場担当者の判断が妥当かどうかを検証するのが先ですよね。その結果をもって、相手を説得するためにプレゼンをするというのが通常の仕事の進め方でしょう。ところが、上記の説明ではまるで、「データを重視する相手の意向におもねって結論を変えてしまう」ように読めてしまいます。
ただ、そう読んでしまうのはきっと素人の浅はかさで、外資系コンサルの方ならば、このような問題の発見と解決を高スピードで進めるので、このようなアプローチになるのでしょう。
似たような話としては、「内容のボリュームと分かりやすさの比較」のパートでは、主人公が
たくさん書けば書くほど分かりづらくなっていたなんて…シンプルがいちばんですね
といっていますが、これだと「とにかくシンプルにすればいいんだ」と初心者は誤解しかねません。
これも実は、練りに練った文章を考えられるのであれば、シンプルにすべし、と言うのが著者の本当にいいたかったことと拝察します(もしくは逆に、言葉をシンプルにするために文章を練り込む)。あるいは、前述の「相手の理解度に応じて情報の細かさを決める」と照らし合わせれば、「ある程度わかっている相手にはシンプルにするが、前提条件を共有できていない相手には細かく丁寧に伝える」と理解してもいいのかもしれません。事実、著者もかなり情報量の多いスライドを「いい例」として掲載していますし(87p)。
プレゼン中級者から上級者への脱皮のために
逆にいうならば、プレゼンや資料作りの中級者を脱して上級者になりたい人には本書はお薦めです。「資料作成の3つの段階」のパートで述べられている、
- スケルトン:資料の目次・概要を作る
- ドラフト:資料を肉付けする
- フィックス:資料の見映えを整える
というのは、王道的なアプローチです。しかも、上記のそれぞれのパートで中級者が陥りがちな失敗例が丁寧に解説されているので、「そうそう、こういうノウハウが知りたかったんだよ」と納得感があるでしょう。例えば、122pで示されている「スケルトンで失敗するパターン/失敗しないパターン」は、心当たりがある人も多いのでは?
同様に、PREP法を解説したパートでも、通り一遍の
- Point (主張)
- Reason (理由)
- Example (事例)
- Point (まとめ)
で終わらせずに、自分の意見をアピールする当事者スタイルと相手の判断にゆだねる専門家スタイルに分けてPREP法の応用編を解説してくれています。中級~上級の読者ならば、これを見ながら、自分の置かれた状況と説明の相手に合わせて、より適切な説明のスタイルを考えられるでしょう。
外資系コンサルの実務が垣間見える魅力
また、ところどころに挟まれている「コーヒーブレイク」は、外資系コンサルタントのリアルな話が垣間見れて、興味深いものです。たとえば、92pで解説されている「相手のタイプに合わせて資料の構成と伝え方を意識する」のところでは、聞き手を
- 結果を重視←→過程を重視
- 自己判断を重視←→他者意見を重視
の2軸の4タイプに分けています。それぞれのタイプへの対応法として、こだわり志向タイプ(課程+自己判断)だったら、
相手の判断を突き崩すデータを提示すると資料の内容を受け入れてもらえる可能性が高まります。また、議論の本質とは関係のない表やグラフに興味を示すと、相手は興味本位で、細かい質問を重ねて議論を長引かせる要因になるため、必要最低限のコンテンツで議論に臨みましょう。
と言う提言で、「あ~、あるある」と納得してしまいます。
ちなみに他のタイプは、結果+自己判断が実用志向、結果+他者意見が低リスク志向、課程+他者意見が強調志向。
ということで、それこそ外資系コンサルで働くような、ある程度の資料作りのレベルに達している方は、手に取ってはいかがでしょうか。下記、他にも本書で参考になったポイントをまとめました。
●思い込みによる資料作成の失敗パターンは、ゲスとゴールドプレーティング
●資料作成で最初にしなければならないこと
Who: 資料を見せる相手
What: Whoに対して何をして欲しいのか
Why: 相手(Who)と狙い(What)が妥当である理由
●情報量を少なくするには、まず目次を作る
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