本物の科学者が解くプレゼンの科学

アカデミックの世界にも学会などでプレゼンテーションの機会は多いそうです。ということは、そのテクニックがビジネスにも参考になるかもしれないと思いチェックしたのがこちら。論文・プレゼンの科学―読ませる論文・卒論、聴かせるプレゼン、伝わる英語の公式。著者の河田先生は、江崎玲於奈賞、紫綬褒章などを受けた、ナノフォトニクスの大家。そんな方が、手取り足取り指導してくれるように書かれています。

面白いのは、論文執筆にしてもプレゼンテーションにしても「科学」と言い切っているところ。曰く、

プレゼンやレポートは、才能ではありません。論文やプレゼンは「文学」ではありません。簡単な公理に基づいた「科学」です。それを日本では誰も教えてくれなかったから、いま苦手に感じるだけです。

この科学を学べるのが本書という位置づけでしょう。

リスクを押さえて本書を活かす

それこそ生粋の科学者がおっしゃるのですから間違いがないとは思うのですが、一方で本書で示されている「公理」には、ビジネスで使うと危険なものもあります。たとえば、ポケットに手を入れる、というもの。

ネクタイは締めずにシャツの第一ボタンをはずして、ポケットに手を入れて話します。これが私の最もリラックスできる普段の状態なのです。品がわるく生意気に見られるかもしれませんが、せっかくの伝えたいことが緊張してうまく言えないよりは、ずっとましだと考えます。近くに壁があれば、少し寄りかかりながら話すのもよいし、演台に手をついて話すとリラックスできるならばそうしてもかまいません。

これはアカデミックな世界ならでは、もしくは、著者のようなビッグネームだからこそ許されるもので、なまじっかの人が真似すると、失敗するのは目に見えています。

同様に、「プレゼンテーションソフトの補助機能は切る」というパートでは、パワーポイントのテンプレート機能を使わないことが提唱されていますが、これもビジネスにおいてはNG。ビジネスにおいては「一生に一度」というものは少なく、どんどんと改訂を加えていくべきもの。ところが、テンプレート機能を使わないと、改訂の際に手間がかかる「メンテナンスしにくい」スライドになってしまいます。

このようなリスクを分かったうえで、本書で提唱されている「科学」を採り入れると、ビジネスにおいてもプレゼンテーション上手になるヒントになるでしょう。

スライドに書いてあることは全部話す、書いていないことは話さない

本書で提唱されているプレゼンの科学でビジネスに採り入れたいポイントと言えば、「スライドに書いてあることは全部話す、書いていないことは話さない」というところ。曰く、

話す内容・言葉とスライドの内容・言葉が異なると、聴衆は耳と目とどちらに集中するべきか分からなくなります。スライドに書かれた文字と話す言葉がきちんとシンクロしていれば、聴衆はああなたの話を聞いていればよいのだなと安心し、自然と聴衆は話しに集中してくれます。

ということ。プレゼンに限らずビジネス全般で言えますが、実は話し手が「話した」と言うことと、聞き手が「聞いた」は別。しかも、聞き手が「聞いた」と「理解した」はまた別。ということは、プレゼンターは、話すことを聞いてもらうためにはどうしたらよいか、聞いたことを理解してもらうためにはどうしたらよいか、を考える必要ががあり、この「スライドに書いてあることは全部話す、書いていないことは話さない」というのはそのためのテクニックの一つと思いました。時々、ビジネスの世界でも、「読めば分かることは話すな」という人がいますが、それが間違いであることが、この「科学」からも証明されています。

追記:起承転結の否定

プレゼンテーションでストーリー感を出すために、「起承転結」というのがよく言われていることですが、本書においてはこれは否定されています。むしろ、

起承転結は、科学論文では禁じ手のストーリー

との位置づけで。なぜならば、

…「転」以降が、本当に伝えたいメッセージなのです。ということは、それまでの話は不要であったということになります。これはきわめて危険です。読者が「転」より前で読むのをやめると、著者のメッセージは間違って伝わります。

という理由が述べられています。

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