「プレゼンテーションを刺激的なものにして、聞き手の想像力をかき立てたい」。

そんな問題意識をお持ちの方が手に取ってしまうかもしれないのが、なんとも魅力的なタイトルの本書、「プレゼンテーション・パターン: 創造を誘発する表現のヒント (パターン・ランゲージ・ブックス)」です。

慶応大学で練り込まれたプレゼンテーションのコツ

著者の伊庭先生は、慶應義塾大学総合政策学部、いわゆる湘南藤沢キャンパス(SFC)の准教授です。その学生と共に(というか、学生を指導しながら?)まとめたプレゼンテーションのコツが本書のベースになっているようで、本書の端々からそんな息づかいまで聞こえそうです。

たとえば、パターンNo.26として紹介されている「最善努力」。これは、

余計な言い訳はせず、今できるベストを尽くそう

というもので、研究室の発表でぐだぐだなプレゼンをした学生が、「忙しくって…」と言い訳したのに対する叱咤のようなイメージを受けます。同様に、パターン30の「終わりが始まり」も、

プレゼンテーションの後に、聞き手と話す時間をとって創造の連鎖を実現するとともに、振り返って学ぶことで今後のプレゼンテーションにつなげよう

ということですから、学生への指導の様子がうかがえます。

パターン名を覚えてプレゼン上手に

具体的な内容は、全34項目のプレゼンテーションのパターンが紹介されています。パターンとは要するにプレゼンテーションのこつなのですが、これを「状況」(context)、「問題」(problem)、「解決」(solution)というセットで説明しているのが本書の特徴であるとのこと。また、チョット面白い記載が、

最も重要なのはパターン名です。パターン名は、そのパターンで紹介されている秘訣の本質を端的に表し、魅力的で覚えやすいように命名されています

というもの。言われてみると、「ぶんび両道」、「はてなの扉」などのパターン名は印象的で覚えやすいものになっています。自分でプレゼンテーションを作成するときにアイデアを広げたいと思ったら、こんなキーワードをきっかけに本書で提唱されているコツを思い出すと良いのでしょう。

TEDの劣化コピー版のリスクも

ただ、一つ一つのコツの抽象度が高くて、すぐには実践できないところが本書を読むときの一番の悩み。たとえばパターン11の「適切な情報量」。これは、

全体から部分のあらゆるレベルにおいて、 情報量が適切になるように調整しよう

というコツですが、この「適切」が分からないから多くの人はプレゼンテーションで悩むわけで、何のアドバイスにもなっていません。同様に、パターン6の「図のチカラ 」は、

伝えたい内容を自分の中で整理するために図を描き そこで得られた世界の捉え方を聞き手と共有しよう

というものですが、ではその「図」をどうやって描くのかのノウハウがないと、自身のプレゼンテーションを改善するヒントにはなりません。

本書の書かれた経緯を考えると、実際の研究室においては伊庭先生が直接指導してくれるので、このくらいの抽象度が高いアドバイスで良いのでしょう。でも、全くのプレゼン初心者の読者が本書を読むだけだと、かっこつけただけで中身がない、TEDの劣化コピー版が出来そうでちょっと心配になりました。

プレゼンテーションの全34パターン

  • 創造的プレゼンテーション:プレゼンテーションを情報伝達することだととらえるのやめて きてが自分なりの発想や発見を生み出す創造の手助けをすることだと捉えて取り組もう
  • メインメッセージ :自分が確信を持って情熱的に語れるもので、聞き手に必要性重要性があり、聞き手を創造的にさせるメッセージを1つに絞る
  • 心に響くプレゼント :作っているプレゼンテーションが誰に向けてのものなのかを意識して、 特定の人を具体的にイメージし、その人を喜ばせるつもりで見せ方を考えよう
  • 成功のイメージ:プレゼンテーションを通じて きてが創造的になっている状態、つまり、あたらしい発想や発見が誘発されている状態をイメージし、それに向かって作り込んでいこう
  • ストーリーテリング:聞き手の想像力を掻き立てる、心を動かすことができるような 魅力的なストーリーを考えてそれを語ろう
  • ことばさがし:プレゼンテーションを作るときには、 たくさんの本をざっと見ながら、 自分にとっても聴き手にとっても魅力が感じられ、 創造誘発できそうな言葉を探そう
  • 図のチカラ :伝えたい内容を自分の中で整理するために図を描き そこで得られた世界の捉え方を聞き手と共有しよう
  • メリハリ:プレゼンテーションにメリハリがつくように、強弱をつけて、 スピードと間を工夫し、 重要な部分を繰り返すようにしよう
  • 驚きの展開:聞き手が何を予想しているのかを考えて、そこからあえて外すことで意外性をもたらし、 内容を印象付けよう
  • はてなの扉 :小さな問いや謎の登場と解決の繰り返しによって、聞き手が好奇心を持って聞くことができるストーリー展開にしてみよう
  • ぶんび両道:わかりやすさと美しさが両立するように、 内容と表現を行ったり来たりしながら手直しをしていこう
  • 適切な情報量:全体から部分のあらゆるレベルにおいて、 情報量が適切になるように調整しよう
  • 魅力のちょい足し:笑い、弱さ、こだわり抜いた作り込みなど 自分らしさが出るような魅力を加えていこう
  • イメージの架け橋:聞き手が想像できるようなメタファーや 具体例を用いて 聞き手が内容理解しやすくなるような工夫をしよう
  • リアリティーの演出:共有したい経験や感覚のリアリティーを、 聞き手が自分自身で感じることができるような演出をしよう
  • 参加の場づくり:聞き手がただ受け身なるのではなく、 手を上げたり、ほかの聞き手と話したりをするような簡単な参加の方法を考えてみよう
  • 細部へのこだわり:全体を踏まえた上で、 違和感を1つずつなくすように、 徹底したこだわりを持って細部の修正調整に取り組もう
  • 表現のいいとこ取り:いろいろな人のプレゼンテーションを見て、 自分に言い聞かせそうな見せ方を取り入れ、 少しずつ自分のやり方を拡張していこう
  • 不快感の撲滅:自分の話し方や声、 振る舞いなどで不快な点がないかを知る機会を作り、 それらをなくす努力をしよう
  • 隙間を作る:内容すべてを詳細に言うのではなく、 聞き手が自分で想像力を働かせる余地を作ろう
  • きっかけスイッチ:聞き手が自ら考えて、 次の行動を踏み出すためのきっかけをつくり、聞き手の内発的なエネルギーに気をつけよう
  • テイクホームギフト:プレゼンテーションの内容を魅力的な形にしてきて荷渡し、 聞き手が語り部になる支援をしよう
  • 場のしあげ:設備や機材もプレゼンテーションの1つの要素であると捉え、 入念なチェックと準備調整を行おう
  • 成功のリマインド: 成功のイメージを何度も言語化可視化して、 記憶をリフレッシュさせよう
  • 自信感の構築:これまで自分がやってきたことこだわってきたことを一つ一つ確認し、 俺らを積み上げていくことで、自信感も作っていこう
  • キャスト魂:自分自身もプレゼンテーションの1部であることを意識し、 自分らしい語り手の役を演じる気持ちでステージにあろう
  • 最善努力: 余計な言い訳はせず今できるベストをつくそう
  • 一人ひとりに:聴き手ひとりひとりに伝えようとする姿勢で、意識的に聞き手の目を見ながら語ろう
  • 世界への導き:聞き手が惹きつけられるような魅力的な世界を垣間見てて そこに導こう
  • 即興のデザイン:日ごろから即興のためのレパートリーを充実させておき、 本番でそれらを即興的にらみながらプレゼンテーションを行う
  • 終わりが始まり:プレゼンテーションなどに聞き手と話して時間をとって想像の連鎖を実現するとともに、 振り返って学ぶことで今後のプレゼンテーションにつなげよう
  • 独自性の追求:プレゼンテーションを作るために、自分の中を深く掘り下げ、内容と表現を突き詰めていき、独自性を追求しよう
  • 魅せ方の美学:魅せ方についての感覚を日々磨き、自分なりの魅せ方の「美学」を持とう
  • 生き方の創造:自分なりの「生き方」を編み出しながら、日々を本気で生きていこう

画像はアマゾンさんからお借りしました

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