「DX時代、セミナー講師はどうあるべきか…」。そんなとき手にとりたいのが加藤貴之先生のご著書「DX時代のセミナー講師スキルアップ&データ分析・活用講座」です。
DXで研修の付加価値が変わる
本書は、ZoomやTeamsなどのデジタルツールを使って研修を上手にやろう、と言うのがメインテーマではありません。むしろ大事なのは、研修がデジタル化したことによりデータが蓄積され、それを元に新たな付加価値を提供できるとの発見です。
たとえば、研修のグループワークの際には、様々な意見が出されます。管理職研修であれば、そこには現状の組織の課題の認識とその解決のためのヒントが詰まっています。これを何らかの形で経営陣にフィードバックすることができれば、大きな付加価値となるでしょう。
あるいは、デジタルツールにより研修効果の向上が見込めます。研修というのはやることそのものが目的ではなく、結果として参加者の行動がよりよい方向に変わることに意義があります。そのためにはフォローアップが有効ですが、これをスマホを使って行えたとしたら、より行動を変える力が強く働くはずです。このようなヒントを提示してくれているのが本書の意義です。
研修DX化のスマイルカーブ
上記のようなアイデアの理論的背景としては、スマイルカーブが取り上げられています(本書153p)。もともとはスマイルカーブはパソコンの製造業で提唱されたアイデアです。いわく、パソコン業界においては川上(設計/デバイス)と川下(サービス/メンテナンス)の付加価値が高く、真ん中(組み立て)の付加価値が低いことを表していました。
これを研修DX化に持ち込むならば、川上(研修の設計)と川下(事後分析/コンサルティング)の付加価値が考えられると著者の加藤貴之先生は提唱されています。
なお、川上をさらに遡るならば、その会社の人材ポートフォリオやあるべき人材像にまでおよぶことも考えられ、これもこれまでの研修ではなしえなかった付加価値向上の一環と感じました。
では、「真ん中」は?これは、
知識を伝えるタイプの研修はアバターでもできるようになり、付加価値が下がっていく可能性があります。
とのこと。これはその通りで、知識の伝達だけならばわざわざ研修を行う必要はなくなるでしょう。アバターによる研修ですら必要なく、文字による伝達と到達度テストで代替できるはずです。
一方で、同じ研修といっても、知識の伝達ではなく知識を頭の中に定着させたり、多人数の議論により新たな発想が広がるタイプのものもあるでしょう。これは、Zoomの利用で低コストで(移動する必要がない)実現でき、かつ付加価値向上につながるので、必ずしもスマイルカーブという概念は正しくないのではないかと感じました。
テキストマイニングで研修につながるインサイトを発見する
研修のDX化のもうひとつの事例としては、研修で伝えるべき内容、すなわちコンテンツの精緻化が取り上げられています。具体的には、著者の加藤貴之先生は、ご自身の専門分野であるハラスメント分野において、テキストマイニングをされたとのこと。
裁判所のウェブサイトに、裁判例検索のページがありますので、「パワハラ」と「セクハラ」という言葉を入力して、出てきた裁判例を調べてみました。
結果としては、ここから新たなインサイトが発見できたわけではないとのことですが、それでも先端的な試みとして興味を惹かれます。これを敷衍するならば、ハイパフォーマーの行動をAIで分析し、そのキモを抽出し、研修で伝えることで「普通の人」をハイパフォーマーにすることも不可能ではないと感じました。
画像はアマゾンさんからお借りしました。