「アメリカの敵」といったらどこぞのテロ国家を想像しますが、実はそれだけじゃなくて「パワーポイント」も敵と認定されたそうです…。
というのは、パワーポイントで作成した作戦図が、あまりにも複雑になりすぎてワケが分からなくなってしまったから。これがその図ですが、たしかにこれは作戦の意図がまったく伝わらず、味方の兵士が危機に陥りかねません。これは「敵」認定もしょうがないわ。
※元ネタは、ニューヨーク・タイムズの”We have met the enemy and he is power point“という記事。
こんな話題とともに、ちょっと変わった切り口からプレゼンテーションのコツを紹介してくれているのがこちらの本。
黒木 登志夫著、知的文章とプレゼンテーション―日本語の場合、英語の場合 (中公新書)
「ちょっと変わった」というのは、著者の黒木先生は大学関係者であり、読者も主に学会などで発表している人を想定していること。たとえば、第5章の「審査する」のパートでは、学位論文を審査する観点から「分かりやすい文章は何か」が解説されています。
なので、ビジネスパーソンに全てが役立つわけではないですが、それでも要所要所にアカデミックな香りのする提言があります。
●プレゼンテーション3つの秘訣
- 内容がしっかりしていること
- 簡潔・明快に表現されていること
- 無理なく理解できる論理の流れ
●アリストテレスの人を説得する方法 (元ネタはカーマイン・ガロの「スティーブ・ジョブズ脅威のプレゼン)
- 聞き手の注意を惹くストーリーやメッセージを提出する
- 解決あるいは回答が必要な問題あるいは疑問を提出する
- 提出した問題に対する回答を提出する
- 提出した回答で得られるメリットを具体的に記述する
- 行動を呼びかける
●東照二の講演のSHARP
- Story (物語性)
- Humor (ユーモア)
- Analogue (たとえ)
- Reference (資料)
- Picture (図解)
2017年11月2日追記
アカデミックの「守る」プレゼン
上述の通り、黒木先生は大学関係者(がんの研究者)であり、学会などの発表を想定しているのが本書ですが、そうすると普通のプレゼンテーションとは異なるニュアンスで説明されているパートがあります。たとえば、ビジネスでのプレゼンでは、質疑応答と言ってもそれほど攻撃的なものはないでしょう。ところが、学会の発表だと、同じ研究分野のライバルがいて、その人たちが研究の成果に対して、「本当か?」、「発見自体たいしたことがないのでは?」と厳しい突っ込みを入れてくるそうです。
これを端的に表したのが、科学者(分子生物学者)であり歌人である永田和宏先生の歌です。孫引きになりますが、紹介してみます。
有無を言わさぬデータを積みて主張する たとえばアーチの最後に置く石
完璧に勝ったぜと思い壇を降りる スタンフォードのライバルの前
このような環境下におけるプレゼンテーションは、必然的に自説の正しさを証明する、もしくは自分の理論を「守る」必要が出てきて、ビジネスにおけるプレゼンテーションとは異なるニュアンスが出てくるのでしょう。
ただ、ビジネスでのプレゼンの場合、自説にそこまでこだわる必要はなく、むしろ聞き手からもアイデアを出してもらって、創発的によりよい結論が生まれれば、その方がベターです。したがって、本書に述べられたことをビジネスで応用する場合には、注意が必要と思われます。
パワーポイントの二つの側面
パワーポイントの使い方に関しても面白い記載があったので追記します。
●パワーポイント作成のポリシー
- 1枚のスライドには1つのメッセージを明確に示す
- 一番上にタイトルを置き、メッセージが一見して分かるようにする。タイトルは1行以内、色を別にしてタイトルであることを明確に示す
- 本文は10行以内
- 長い文章は書かない。1行以内の短い文章か箇条書き
- 図、写真は多くとも4枚
- 表は7行以内
●パワーポイントのデザイン
- 背景は白地
- 文字はサムライブルーと黒の2色のみ
- 見出しと箇条書きの頭の・は、サムライブルー、本文の字は黒色
- 見出しは36ポイント、本文は20-28ポイント
- フォントは外国でも文字化けしないよう、Microsoftのフォントを使う。私の好みのアルファベットフォントは、Tahomaである。
- アニメーションは必要なときだけ効果的に使う
- 最初から最後まで一貫したデザインで通す
一番面白いと感じたのは、どのような情報を掲載するか(インフォメーション)とどのように見せるか(デザイン)を分けてポリシーを決めていることです。パワーポイントのデザインというと、この二つをごっちゃにしているケースが多いのですが、明確に分かれているとそれぞれのポリシーの意味合いがより鮮明になると感じました。
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