講師は上手なストーリーの語り手である必要があります。そのために参考になる本をこれまでもいくつか紹介してきましたが、そのラインナップに1冊加わりました。それが、ラリー・ブルックス先生のご著書、「工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素」です。
ただ、結論から言うと、300pを超える分量の割には講師に活かせるところは少ないという印象です。むしろ、「物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン」や「 「物語力」で人を動かせ!―ビジネスを必ず成功に導く画期的な手法」の方をお勧めしたいところ。
訳者は講師養成の適任者
まずは著者、ラリー・ブルックス先生の紹介です。奥付を読むと、
心理スリラー小説「Darkness Bound」、「Pressure Points」、「Serpent’s Dance」など6作品の著作を持つベストセラー作家。物語創作のインストラクターおよびフリーランス編集者としても活動。
とのこと。
ただ、アマゾンで検索すると上記の小説は翻訳されていないようで、日本ではどちらかというと物語作りの方法論を説明した著書が目につきます。実は奥付にもこの記述があり、
自らが運営するStoryfix.comは書き手に役立つウェブサイトとして好評を博している。
のだそうです。
あわせて、翻訳者のシカ・マッケンジーさんも紹介しましょう。お名前からは日本人ではないような気がします。翻訳者は一般的には母国語の人が担うのですが、あえて英語のネイティブスピーカーが翻訳に取り組んだのでしょうか。ご経歴は、
関西学院大学社会学部卒。「演技の手法は英語教育に取り入れられる」とひらめき、1999年渡米。以後ロサンゼルスと日本を往復しながら、俳優、通訳、翻訳者として活動。教育の現場では、俳優や映画監督の育成にあたる。ウェブサイト英語劇ドットコムを通じ、表現活動のコンサルティングも行っている。
とのことなので、本書の翻訳にはぴったりの方なのでしょう。あるいは、この背景を踏まえると、セミナー講師として活動するためにもヒントを与えてくれる方のような気がします。
物語の6つのコア
では、内容に入りましょう。著者は、「6つのコア」を知る事が、言いストーリー作りの基本であると説きます。それが、
- コンセプト:ストーリーの土台となるアイデア。「もし~だとしたら? (What if?)」という問で表すとはっきりと分かる。
- 人物:感情移入できるように設定する
- テーマ:「世の中の何を描き出すか」。コンセプトとの違いに注意。
- 構成:物事を伝える順序とその理由
- シーンの展開:競争に勝つための実戦能力
- 文体:控えめにするほど多くが伝わる。個性的な文体や細かな描写で書く部分を限定すればさらによい
となります(30p)。
人物設定は「内面の悪魔との葛藤」で
コアの2番目、人物設定については、さらに7つのカテゴリーで考える事により魅力的な造形ができるそうです。それが、
- 表向きの顔と性格
- バックストーリー:ストーリーが始まる前に本人に起きたすべての出来事
- 人物のアーク(変化):ストーリー中で体験する学びや成長
- 内面の悪魔との葛藤:心のネガティブな側面
- 世界観
- ゴールと動機
- 決断、行動、態度:以上6つのすべてを繁栄してなされる決断や行動
です。表面的なものだけでなく、その人の背後を考え、葛藤を生み出すところがポイントでしょうか。
よく分からないコンセプトとアイデアの違い
コンセプトについては後のページで解説されていて、クライブ・カッスラー先生の小説「タイタニックを引き揚げろ!」を題材に、
「海底からタイタニック号を引き揚げる物語」というアイデアを得たとする。「船に隠された秘密を隠蔽しようとするものたちの存在」はコンセプト。「主人公は国を危機から守る任務を命じられる」は前提だ。
と説明されます。
…え~っと…?
続けて、
アイデアとコンセプト、前提は似ているが違う。ストーリーの計画を立てるときはその違いが重要だ。アイデアとコンセプトは「パン」と「世界で最も美味なブリオッシュ」ほど違う。どちらもパンだが、ブリオッシュはいわばステロイドで増強されたパンであり、見栄えまで立派に作られる。単なるアイデアである「パン」と区別すべきだ。アイデアを物語用に進化させたのがコンセプト。物語の土台となり、舞台になるものだ。
という説明ですが、これを読んだだけでアイデア、コンセプト、舞台、前提、などの違いが分かるかというと、答えはノー。
実は本書にはこのような、一見意味があるようだが、実は何を言っているか分からない、という記述が多いのです。
それはまるで禅の高僧の言葉のようで、分かる人には分かるけれども、分からない人には分からなくって、わざわざ労力をかけてまで読む必要はないと感じてしまいました。