英語プレゼンで印象づけるキーワーディング
英語のプレゼンテーションは、ついつい「話すこと」ばかりに意識が向いてしまいますが、それを超えて「いかに相手に印象づけるか」を考えたいときに参考になるのが、鮫島、沢渡両先生の著書「英語で働け! サラリーマン読本-英文契約・交渉・プレゼン、ナンでもコイ! – (B&Tブックス)」です。
具体的には、聞き手に印象づけるテクニックとして、「キーワーディング」と「タギング」が提唱されています。キーワーディングとは、
プレゼンテーション全体の趣旨と訴求ポイントに、キーワードやキーフレーズを設定すること
と解説されています。たとえば本書には書かれていませんが、オバマ元大統領の「Yes, We Can」などがそうでしょうか。別に難しい言葉でなくても、
あくまで「キー」なので、簡潔であること、覚えられやすいこと、親しみやすいことなどがポイント
だそうです。
さらに本書の親切なのは、そのキーワーディングの方法まで解説してくれているところ。
- N字略称:五つのSやPDCA、マーケティングの4Pなど、数文字の略称でまとめたもの
- 直ワード:「速い」、「業界最安値」など、ポイントを直接的に示した単語
- フレーズ/センテンス:「コストいらず」、「玄関あけたら○分」など、ポイントを説明する文章
の3つが提唱されています。ただこの三つ、微妙に使い分けが必要で、N文字略称は多くの情報を伝えることができるが訴求力は弱く、逆に直ワードやフレーズ/センテンスは情報量は多くないが、訴求力は高いから。
聞き手との関係によって変わってくるキーワード
上記のキーワーディングは大切ですが、それも聞き手があってのこと。そもそもが聞き手に印象づけようと言うことなので、聞き手(と話し手の関係性)によって、どのようなキーワーディングするかが決まってくるとのこと。すなわち、
- 聞き手のスタンスが自発的か受け身か
- 話し手の聞き手に対するパワーが強いか弱いか
- 話し手と聞き手の親密度が密か疎か
によって、キーワーディングを変えるとのこと。聞き手が自発的であれば、N字略称でもOKで、なぜならばその言葉の背後にある考えを聞き手が読み取って理解してくれるから。一方で聞き手が受け身な時には、直ワードで訴求力を高める工夫が必要です。同様に、話し手の聞き手に対するパワーが強ければN字略称、弱ければ直ワード、話し手と聞き手が親密であればN字略称、疎遠であれば直ワードという使い分けです。このように聞き手のこと(もしくは話し手と聞き手の関係性)まで踏み込んだアドバイスというのは、英語プレゼンテーションの類書にはないところであり、本書を読む大きな意味合いだと思います。
ただ、ここまで読むと実はN字略称はキーワーディングではないような気もしますが。専門的には「先行オーガナイザー」と言いますが、プレゼンの全体像を表す「地図」の役割を果たすものであって、その意味ではN字略称か直ワードかではなく、どちらも必要であると考えるのが妥当だと思います。
英文プレゼンのキモは浸透の3要素
上述のキーワーディングが重要なのは、プレゼンテーションにおいてポイントを聞き手に正しく「浸透」させる必要があるから、というのが著者のスタンスです。「浸透」というのは、プレゼンではあまり聞き慣れない言葉ですが、
グローバルなプレゼンテーションの場では、こちらのストーリーをいかに相手に根付かせて、場にいない第三者も含めた関係者にも伝わるようにするか。いわば「浸透力」が重要になってきます。
とのこと。プレゼンの場にいる人だけでなく、その他の関係者にも広がっていくことを目指すというのは、言われてみれば納得です。とくに、グローバルな環境では、対面で会える人は限られていて、時には電話会議やインターネットでのコミュニケーションに頼らなければならない場合もあるでしょう。そんな人すらも巻き込むプレゼンテーションが「浸透」というキーワードでまとめられていると理解しました。
そしてこの浸透を実現するためには三つの要素があり、それが、
- イメージ性
- 検索性
- 流通性
です。イメージ性は、
その言葉やフレーズを聞いただけで関係者全員が同じ意味をイメージできること。覚えられやすさ、繰り返しての使われやすさなども重要。
とのことで、これがキーワーディングにつながっていきます。検索性は、「その言葉やフレーズを思い出しやすい(=探しやすい)こと。その言葉やフレーズを使って意味を繰り返し説明しやすいこと」、流通性は「その場にいない第三者にも伝わりやすいこと」をそれぞれ意味するとのことです。
ちなみに本書には、プレゼンテーションだけでなく交渉や契約の話も盛り込まれています。英語でのプレゼンテーションで聞き手を納得させるというのは、ある意味交渉の要素もありますから、そんなタフなプレゼンに臨む方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
2017年11月2日追記
プレゼンにおける起承転結の否定
本書においても起承転結が否定されていますので、その観点で追記します。
そもそもの説明ですが、起承転結を大辞林で調べた結果が説明されていて、いわく、
漢詩の絶句で、句の並べ方。起句でうたい起こし、承句でこれを承け、転句で趣を転じ、絶句で結ぶという形式。…以下略」
となっています。
ちなみに、wikipediaでこの起承転結を引くと面白い記述がいろいろあります。元々は漢詩から始まったこのフォーマットがいかにして散文や演劇に用いられたか、そしてそれに対する批判など。さらには、これに変わるフォーマットとして科学論文におけるIMRAD (Introduction, Methods, Results And Disucussion)、そして映画などの脚本における3幕構成などが取り上げられています。
プレゼンでは結論を先に?
さて、改めて本書に戻って、起承転結を否定する理由としては、
ストーリーを盛り上げるための構成としてはよいかもしれませんが、ビジネスの場で使うと単に要点を得ない、じれったい文章になってしまいます。ビジネスコミュニケーション、特にグローバルコミュニケーションにおいては、結論を最初に言うべきです。
とされています。
ただ、実際のところはこれが[常に正しい」わけではないでしょう。結論を最初に言ってしまうと、聞き手は「あ、そういうことね、分かったよ」と心の中で思ってしまい、それ以降のプレゼンテーションを聞いてくれないこともあります。その場合、むしろ結論は最後までとっておくというのも有効な手法です。
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