講師をやりながら心の中で、(この受講者、やる気がないな~)と思うことってありますよね。講義中にあくびをしている、スマホをときどきチェックしている、なんて行動を見ると。

でも、実はその考え方そのものが間違いかもしれません。

というのは、ある人の行動の原因をその人の心にもとめるのは間違いだから。

そんな、ちょっと面白い、でも本質に迫る発想の転換を促してくれるのが、杉山先生のご著書、行動分析学入門 人の行動の思いがけない理由です。行動分析学は、1930年代に米国の心理学者B・F・スキナーによって創始された心理学の一体系。人の行動の原因を解明し、行動に関する法則を見いだす科学です。結果として、「どうやったらその人の行動を変えられるか」につながることになります。

講師から受講者の行動を見ると

ちょっと面白い視点として、創始者のスキナー先生は、行動分析学で「行わない説明」として、下記の3つを提唱しているのだとか。それが、

  • 神経生理的な説明:行動の原因を脳の機能に帰属すること
  • 心的な説明:行動の原因を心のありように帰属すること
  • 概念的説明:能力や本能や性格と言った”仮説構成体”に行動の原因を帰属すること

冒頭の例の(やる気がない)というのは、心的な説明になりますね。

むしろ、行動分析学の観点からは、

  • 遺伝的な説明
  • 過去の環境要因による説明
  • 現在の環境要因による説明

の3つの観点からの分析、そして行動の変容に取り組むことになります。

講師は行動の変容を促すのが仕事

「行動の変容」と言うと言葉としては固く思えますが、要するに、

講師は受講者の行動を変えるところまで責任を持つ

と言う考え方です。

では、どうやって受講者の行動を変容せしめるかというのが「シェイピング」という概念で説明されています。具体的には、

  • 1つの目標を達成したらすぐに強化する(即時強化)
  • 目標を少しづつ引き上げる
  • 目標の達成に挫折したら1つ前の段階に戻る

となります。これは、講師ならずとも部下・後輩の指導をしたことがあるビジネス・パーソンならば誰もがうなずけるステップではないでしょうか。

もっとも、これははとのしつけを題材にしたものすごく単純化した例なので、実際のビジネスで応用するにはもう一つのコンセプトである「チェイニング」これは、ある複雑な行為を細かい要素に分解していき、それらを鎖(チェイン)でつなぐように一連のプロセスを組み立てるという考え方です。この、チェイニングと先ほどのシェイピングをうまく組み合わせることにより、行動を変えることができるという概念です。

管理職に必要なヒトの管理と仕事の管理

上述のチェイニングとシェイピングを応用すると、リーダーとして部下を率いるという行動にも応用が効きます。実際に本書では、ヨットレースにおける有能なリーダーとそうでない人の比較をしていて、有能なリーダーは仕事を細かい要素に分け、具体的な指示→行動観察→フィードバックというのを短いサイクルでやっているそうです(84p)。

実はここに管理職にとって必要なスキルのヒントがあります。

というのは、管理職というと、どうしても「マネジメント」、すなわちヒトの管理に目がいくじゃないですか。でも、実際のところはそれだけではダメ。なぜならば、上述のヨットレースにおけるリーダーのように、細かい単位に仕事を分け、短いサイクルでフィードバックのサイクルを回していく必要があるから。

すなわち、ヒトの管理とともに仕事の管理(組織のミッションを理解する→自部署の仕事の全体像を把握する→細分化する→人に仕事を振る)も求められるから。これら二つの「管理」が上手くかみ合ったとき、管理職は活躍できると言うことがこの行動分析学の側面からも説明できると本書を読んで思いました。

講師ならばさらに知りたい行動分析学

ちなみに、この観点から本書を読み直すと、この行動分析学についてさらに知りたくなること請け合いです。

というのは、「好子」の出現と「嫌子」の消失による強化、好子の消失と嫌子の出現による弱化という考え方自体は納得なのですが、複雑なビジネスの世界においてどのように好子や嫌子を設定するかの説明が本書ではされていないから。

本書はあくまでも行動分析学の入門書なので当然ですが、これをビジネスの現場においてどう活かすかは、読者次第だと思います。


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