プレゼンが通じないリスクの「隠れた前提」

海外でプレゼンテーションをするときには、日本人の「当たり前」が分かってもらえずに苦労することがあります。「隠れた前提」なんて言葉で説明されますが、自分が「当たり前」のことはわざわざ言葉にしないので、それが「当たり前」でない人には隠れているようで、プレゼンを聞いても「意味が分からない」となりがちです。

これを避けるためには、「そもそも日本では…」という説明が必要になりますが、意外とこれ、難しいんですよね。そんなときに参考にしたい本が、「英語で話す「日本」Q&A」です。

たとえば、日本人には当たり前でも欧米人にはなじみがない「ジョブ・ローテーション」の説明を見てみましょう。要するに、様々な部署を経験することによってゼネラリストとしてのキャリアを積み上げていくもので、日本の大企業だと営業から人事へ、人事から企画へなどの異動はよくあります。ところが、これって社員の専門性をベースに処遇していく欧米企業にはなかなかなじみがないもの。

There is another unique aspect of Japanese in-house training, namely, frequent job rotation.  The process cultivates generalist who are useful in any area within the company.

(日本の企業の社内教育にはもう一つ特徴があります。それは、従業員の配置転換(ジョブ・ローテーション)をたびたび行うことです。こうして、どの職場でも役立つゼネラリストが育つのです)。

という具合に説明されれば、プレゼンを聞いた欧米人も納得でしょう。

海外でのプレゼンテーションはもちろん、海外のピッチコンテストなんかでも使える表現だと思います。たとえばHRテックのピッチだったら、意識的にも無意識のうちにも日本の人事制度を前提としているでしょうから、自社のサービスをプレゼンする際には「隠れた前提」を説明する必要があるので。

対話形式でプレゼン特有の表現が身につく

本書では、とくにこの「隠れた前提」になりがちな、すなわち欧米人の「当たり前」と乖離がありそうな項目を、全45項目にわたって説明してくれています。いくつかピックアップすると、「サラリーマン社長」(第1章)は欧米人にとって当たり前の「プロ経営者」の対をなすものですし、「企業別労働組合」(第8章)も、産業別労働組合との対比で説明されるものです。

しかも、うれしいのは、それが対話(ダイアローグ)形式で書かれているところ。これならば一方的な説明に陥らず、聞き手を想定して、その聞き手の持っている疑問を解消するという、プレゼンテーションにぴったりの表現が身につきます。

たとえば、先ほどの「企業別労働組合」で見てみましょう。AさんとBさんの対話のように進みますが、

A: One major characteristic of Japanese labor unions is that they are in-house unions. (日本の労働組合は、それぞれの企業ごとに組織されているのが大きな特徴ですね)

B: Yes, this is totally different from labor unions in Western nations which have horizontal relationships between workers with the same type of job in different companies (この点は、企業の枠を超えて、職種別に横のつながりを持った組合を作っている欧米諸国と大きく違います)

となりますので、欧米人に分かりやすくプレゼンするのに適しているのが分かっていただけるかと思います。

索引で辞書的にプレゼンの表現の幅を広げる

さらに本書をおすすめしたいのは理由があって、それは索引が充実していること。巻末には日本語の索引と共に、英語の索引が掲載されています。というのは、ある意味辞書的な使い方もできて、たとえばさきほどのlabor union (労働組合)というキーワードを索引で見てみましょう。当然、先ほどのページも紹介されていますが、別ページにも労働組合の記載があることが分かります。今度は、

The average rate of union membership in Japan is 25%.  This is 10% below what it was 25 years ago.  (日本の労働組合の組織率は平均25%ですが、これは25年前と比べると10%低下しています)

と、今度は労働組合の組織率の表現も身につけることができました。

したがって、海外でのプレゼンテーションの機会が多い方は、通読するとともに、辞書的にもつかって、表現の幅を広げることをお勧めしたいと思います。

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